第8章 魂の雪蛍
今では敵ではなかろうと、
こやつに敵意がないとは限らない。
だからと言って、
鴉が何か仕掛けているとも思えず
障子を開けた。
そこにいたのは
首に高貴な装飾を施された一羽の話す鴉。
じっとこちらを見上げていた。
「ほぅ……あなたが……。」
品定めをしているかのように
俺を観察している。
無理もない。
俺は、まだ完全に人間に戻ったばかりだ。
そして俺も、いくら、コイツとコイツの主と桜華が知り合いだろうが、長い付き合いだろうとどういう人物かは殆ど解っていない。
何の意図があってここに来たか解らぬ以上警戒心、不信感を抱かずにはいられない。
「何の様だ…。俺はもう鬼ではない。鬼の隠密などもしておらん。」
目の前の鴉は反応しない。
そんなの聞きに来たのではない、
興味はないと言いたげに。
「不信感でいっぱいのようですね。
まぁそうでしょう。
杏寿郎からもお話を聞きましたよ。
先日は、大変重要で貴重な情報を託していただき
感謝しておるのです。
そして、我が主の親友でもあった桜華様をお助けいただいたことも感謝します。
杏寿郎がしていたあなたの話や、託されたあの書から垣間見た、あなたのお人柄を感じまして、我が主もあなたを"日神楽家の一人"として接したいと思っておるのですよ。
そして、その着物の首にわずかに見える、前当主と同じ痣。
その意味を知るものにとっては、
それだけで、あなたが信用できる人物であると、確信できるのです。」
それを本人がどういう表情で、どういう心境で言ったことかは解らない。
俺が原因で日神楽の…桜華の立場が狂わないかが問題なのだ。
「要件はなんだ。」
「そうですね。
では、話しましょう。
あなたは、上弦の参という非常に鬼舞辻に近い地位に長らく君臨されていた。
ありったけの情報を共有したいのです。
そしてあなたなりの戦略も是非ともお聞きしたい。」
「あなた方と連絡を密にとり合い、
少しでも産屋敷鬼殺隊の強化と、鬼舞辻無惨を倒し、
鬼を殲滅させることを共に成し遂げたいと思っています。
協力しませんか?」