第8章 魂の雪蛍
「ただ、俺たちは生きてきただけで、事実は……出来事は起きていくんだ。
どうとらえ、その事実から何を学んで、次どのようにするのか
結局はそこじゃないのか?
生きている限り、時間も何も待ってはくれない。
どんなに絶望の底にいたとしても、また前に進まなければならない。」
『別人のように強くなったな。お前。』
目の前の俺は、そいって優しく笑った。
同時にそいつの周りが徐々に光が強くなる。
『ならば、生きてみろ。志を果たしてみろ。俺はずっとお前を見ている。
生きてて良かったと、思わせてくれ。
”日神楽 狛治”として、
第二の人間としての生を、精いっぱい生きて見ろ。
俺はお前をもう一度信じる。』
そういって眩しい光と共に”過去の自分”が浄化されたように消えていった。
目が覚めると明るさからあまり時間がたってないように感じた。
生き物の気配がして、障子の方に顔をやると
何やら、月の光に照らされて、動く影が映っていた。
鳥?
縁側をコトコトと音を立てて右往左往しながら、こちらの様子を伺っているようだ。
「誰だ。」
「こんばんわ 元上弦の参、猗窩座。
いや、今のお名前は、日神楽 狛治さんですかね。」
酷くしゃがれた声は人間のものではない。
人間のように流暢に話すが、声の質は鴉のものだ。
「そうだが………、
俺は、お前が、誰だと聞いている……。」
「いやいや、これは…。
挨拶が送れて申し訳ございませんな。
初めまして。
吾輩は、産屋敷耀哉の 使いの者です。
桜華様は、幼少の頃からの顔見知りではあります。
先に細手塚殿とのお話をすませて、こちらにあなたがいると聞いてやって参りました。」
言葉を話す鴉は以前にも見たことがあったし、自分に宛がわれる生き物も話す鷹であることから、何ら不思議ではなかった。
やや年老いた貴族の口調の鴉。
主の格式の高さが伺えるほどの気品と高貴さを感じる。
鬼狩りの当主にして、鬼舞辻の最大の敵。
すなわち1年前まで敵対してた男の使いが訪れたことに驚いた。