第8章 魂の雪蛍
「彼女も、恋雪さんも、師範も、俺を愛してくれた人たちは、
そんな自分でも身分も何も関係なしに俺自身を見ていただろ?
愛してくれただろ。
それなら、俺自身を信じて手を差し伸べて助けてくれる人たちが喜んでくれるのは、
俺が、俺自身が自分を愛して信じて、
選び信じた道を突き進んでいく事。
幸せに笑って生きていく事じゃないのか?」
桜華や、彼女の周りにいた人たちが、この一年足らずに俺に教えてくれたことで、
恋雪さんや、師範が俺に願っていたことの意味が分かったんだ。
俺は自分の心や魂が一番喜ぶことをすればいいのだということを。
だから、俺は、俺を大切にしてくれる人と一生懸命に生きて、この命を全うする。
目の前の俺は、目を見開いて俺の目を見ていた。
その瞳の色は、さらに強く光が戻ってきた色をしていた。
そして、今度は目を伏せて戸惑っているような声で続けた。
『そうか.....。
そうだ。下を向いてばかりでは、皆は喜んではくれないだろう。
でも、お前は怖くないのか?
大事なものを失う事は怖くないのか?』
鬼になる前の自分は自分にあったものをすべて失った。
そして今、確かに沢山の繋がりが生まれていく中で、
俺はたった1年足らずで失いたくないものが沢山になった。
贅沢な話でもあるが
逆に考えると、彼らをすべて失ってしまったら、
俺はどんなことになるか、どんな自分に陥るかわからない。
ただ、それでも生きていく限り、どうしても一人では生きていけないから、繋がりが生まれて、愛が生まれる。
自然の摂理に逆らうことは出来ないのだ。
だから、怖がるのではなく
有ることが難しいのだと
感謝して生きねばならない。
それすら、桜華に気づかされたんだ。
「確かに怖い。
大事な人たちがいなくなってしまう事、守れなかったと悔しくなって絶望に陥ったお前の事もよく覚えている。
でも、まだ俺は例え鬼として生きていても、確かに生きて、生きた結果、また今がある。
苦しい事ばかりではなかった。
お前もそうだっただろう。」