第8章 魂の雪蛍
日輪刀が完璧に仕上がったのはその日の夕方だった。
戦いを見せるところから、考案、設計、型作り……
特殊な刀で、細工と模様も刻んで…
巧一も朱音も携わった弟子たちにとっても忘れられない程の最高傑作になった。
そして、もう二つ、
初代の書より作るよう云い記された花札のような耳飾りと、鬼狩りとしての戦闘服となる衣装も
朱音より手渡された。
翌日の夜には予定していた"刀剣授与、色変わりの儀"が執り行われ、朱音の提案で"日神楽家籍入れ誓盃の儀"も共に執り行うとの事。
そして、その儀式が終われば
桜華が、彼女の兄と共に2度舞い踊った日神楽舞踊を舞う。
受け継がれた舞踊の狩衣で身を包んで。
夕飯の後、巧一がその話を二人にした。
二人は、籍入れの儀式まで執り行われることに感謝し、
もういよいよ、鬼狩りとして動き出すのだと背筋を伸ばした。
「もう、これで正式に日神楽家の人間でございますね。おめでとうございます。」
巧一の隣でともに話をしていた朱音が狛治に感慨深そうに目を細め、言葉をかけた。
「桜華もそれを言葉で承認してくれました。
思ったより早かったですが、このような形で人間に戻れて祝福していただいてよかったと思っています。」
そう返事の言葉を、目尻の涙を指で拭いながら、朱音さんは優しく笑みを浮かべて頷いた。
「桜華様のこと、よろしく頼みます。」
巧一が狛治に深く頭を下げる。
まるで嫁に出される娘のような気持ちになった桜華は、巧一の姿に、己の父親を重ねた。
そして、巧一、朱音と同じく、狛治に頭を下げた。
「よろしくされるのは俺の方です。これからもよろしくお願いします。」
狛治は慌てて大きく首を振り謙遜しながらも、
これから世話になる3人に頭を下げた。
ここにきて、準備を整えるかのように、二人は
刀を得て
鍛練を積み
痣を出現させ
鬼から人へと戻り
永遠の契りを結び
第二の家族である細手塚家に
夫婦であることを認められた。
”日神楽 狛治”
狛治は改めて、その名で、
第二の人間としての人生を桜華と共に歩んでいく事を心の中で誓った。
慌ただしく過ぎた一日は、
ここを去るまでの時間を加速させるかのようだった。