第8章 魂の雪蛍
狛治に手を引かれて
高く伸びた草の間にできた人が通れるほどの道を迷いなく進んでいく。
「ねぇ、どこへ?」
「夜釣り小屋。悟さんが教えてきた。そこで許せ。」
ドクドクと心臓が煩い。
確かに屋敷に戻るには少し遠いのだけど、そこでそんなこと……
思いの外早足で、ぐんぐん進んでいく狛治。
繋がれた手が、すごく熱持ってて強い力。
そこから伝わるように自分の思考までも溶かされていくようでされるがまま。
状況も合わさって、今さっきのそれも合わさって
胸が今まで以上にキュッとしまるような感じがした。
「指輪の風習も、悟さんから?」
「あぁ。」
「有難うございます…。大事にします……。」
「……あぁ。」
父、母も祖父母も、異文化はワリと早めに取り入れていた生家では結婚したらそれをしているのが普通だった。
それが言葉もでないほど嬉しいものだってことが当事者としてこんなに嬉しいものだとは知らなかった。
短い返事にも感情と愛を感じるのはずっと一緒にいたから?
余裕がないことは手に取るように解る。
暫く進むと小さい民家のような古い建物が見えてきた
建物自体は古びているものの、周囲は綺麗に掃除が行き届いて、まるで初めて連れてこられた古い民家を思わせた。
中に押し込められると引戸をピシャリと閉められて体は壁に押し付けられ、言葉を紡ぐ隙もなく深く口付けられる。
「…桜華。他の事を考えるな。俺に集中しろ。」
甘く低い声は少し掠れて色味を帯びている。
その声を聞いただけで溶けてしまいそう。
この地へ来て初めての夜以降から、鍛練や勉強に明け暮れるばかりの日々で、互いに疲れてそれほど交わっていない。
何度も何度も唇を離した合間に、わたしの名前を呼ぶ。
艶っぽい声と、潤んだ赤黒い瞳と合わさって鼓膜から犯されていく。
その紅梅色の髪を撫で付けるように求めると、嬉しそうに優しく笑ってるのが解る。
ただ、貪るようにお互いを求めて口づけた。
ただ幸福で
ただ愛おしくて
もっともっと欲しくて深くなる。
溢れるものが熱い息を混ぜてわたしもただあなたの名前を何度も呼んだ。