第8章 魂の雪蛍
「こんなに早く実現できると思っていなかった。
本来ならば珠世さんに会ってから、
桜華の血と俺の体質を見てもらって人間に近づいていくつもりだった。
しかし、雄治さんと恋雪が俺を人間に戻してくれた。
俺たちは限りなく不可能だった運命を切り開いたんだ。」
運命とか奇跡だとか、そういうのをこの人が口にすることは似合わない。
だけど、
あの雪の日、黒死牟が抱いていた身勝手な期待も現実化しうるものとして、今ここに人に戻った狛治がいる。
彼の思惑以上の結果かもしれない。
彼は何を思いわたしだけを生かし、再び目の前に現れて生かしたまま立ち去ったのか、
そして、鬼だった狛治の逃亡を見て見ぬふりをしたのか
それはどう考えたってわからない。
でも、それが発端となって得た今。
これ以上の奇跡があるのだろうかと思う。
想いを馳せる今、胸が熱くなっていくのを、目の前の愛している人は止めてくれない。加速させていく。
狛治が紡ぐ言葉を待つ。
恐らくそう時間は立っていないのかもしれないけど、
目の前の景色が美しくて、時が止まるような速度でゆるやかに過ぎていく感じがした。
暖かい両手が顔を掬い上げるように頬を包んで
絡む視線が、太陽のよう。
鼓動がどんどん早くなる。
「俺は、桜華の姓を名乗って、共に生きていいか?
これから先、どんなことが起きても、どんな逆境に立たされても、共に乗り越えたいと思えるのは桜華だけだ。
そして、これから鬼を狩る第一線で刀扇を振れば、
桜華がその逆境に立たされることが多いだろう。
その時は誰よりも君の傍で共に寄り添いたい。闘いたい。」
「桜華がいい。
俺と、夫婦になってくれ。」
一度は収まった涙が
また、ひとつひとつ頬を伝っては
あなたの手を濡らしていく