第8章 魂の雪蛍
「『狛治さんは気づいてないけど、
たくさんの人の心を勇気づけ元気にしてきました。
苦しくて暴れてしまうことがあっても思い出してほしい
わたしは、誰も恨んでない。
後悔のない人生でした。
狛治さんを残していってしまうこと以外は
だから、わたしの事で罪を重ねてしまうことは望んではいません。
狛治さんが、
自分の事を責めすぎないで幸せに生きてくれることが望みです。
幸せでした。
ありがとう。』
と…………。」
ずっと言えなかったことを言えて、
狛治が人間に戻って
ようやくここから、本当のスタートのように感じた。
「そうか………。聞けてよかった。
ありがとう。
再び人間として生きていくことを許されたんだ。
もう俺は、過去にしがみつくことはしない。
そして、精一杯生きていこうと思う。」
「はい。」
いつもの優しい眉尻が下がった表情でわたしを見る。
頬を撫でてくださる手が、愛おしくて手を重ねた。
心から幸せだと言いたげなとろけてしまいそうなほどの優しい綺麗な顔が少しばかり真剣な顔になっていった。
「桜華、覚えているか?俺たちがここに来て初めての夜、君に言ったことを...。」
「忘れるわけないじゃないですか。
そんな大事な事。」
あの日の夜、狛治がくれた言葉、こんなに早く実現できると思っていなかった。
『奴の支配から完全に外れ、陽光に当たれて完全に血肉を食らわずとも生きていけるようにならねばならん。
その時、同じ姓を背負わせてくれ。』
そう言ってくださいました。
同じ姓を背負うっていうことは………
次の言葉を聞くまでの時間が長く感じられる。
次第に心臓が脈打つのが早くなって、
その次の言葉が待ちきれず、
ピリピリと甘い期待と不安の緊張がはしるのを感じた。