第8章 魂の雪蛍
狛治が、恋雪さんと地獄に帰る道を選ばなかった。
彼は生きることを選んだ。
恋雪さんはたぶんそこにいたんだろう
暖かい波動を複数感じた。
光で彼が包まれた瞬間、それを見るのが怖かった。
本心で動けなかった自分を自分が許せなくなりそうで。
そして、目の前の閃光があまりにも眩しすぎて、それがなくなると、余韻が狛治の姿を一瞬消した。
でも、そこには
人間の瞳
いや、
父のような赤黒い瞳になったあなたがいた。
ここで生きていくことを選んだと言う事実と
人間の戻れたんだという奇跡に
押さえきれないものが涙となってこぼれ落ちる。
頬の刺青のような模様は消え、頭髪は紅梅色の髪を残した端正な顔立ち。
感じる全てがもう人間そのものだ。
泣きすぎて言葉が出ない。
近づくあなたの真剣な眼差しが見れなくて膝を抱えてうずくまる。
「桜華……」
わたしの名を呼んで、目の前に腰を下ろした。
頭を撫でて、俯いたまま涙でひくつく体ごと全部包むように抱き締めた。
「俺、全部思い出したよ。」
「俺は、人間として生きていた時、約束も遺言も、信頼も………………大事なものを何一つ守れなかった人生だった。
そして、辛抱が足りず、すぐ自暴自棄になる…。
そんな野蛮な男だった。」
そんなことない。
あなたは、何度も深く傷ついて、絶望のどん底に何度も突き落とされて
壊れてしまっただけ。
あなたはいつも優しかった………。
でも、首を振ることしか出来ない。
でも、思い出したなら
彼女の言葉を言わないと………。
そう思って顔をあげた。
「狛治と…………一緒に逃げると決めたあの日まで、
わたしは長い夢を見ていました。
恋雪さんが………あなたの過去を見せてくれた。
そして、遺言を……、彼女はわたしに伝えるようにその夢を見せてたんだと思うのです。
彼女は、死ぬ瞬間まで、狛治と共にいて幸せだった。
今まで言えずにごめんなさい。」
狛治はわたしの目を見て静かに首を横に振った。
穏やかな顔をしてわたしの言葉を待っている。