第8章 魂の雪蛍
視線
体
手がゆっくり離されて
その黄金で縦に割れている瞳が
花火を写しているのが解った。
何かに導かれるようにして、川岸まで一歩一歩を噛み締めているように進むのを
引き留めることができない。
呆然と見守ることしかできなかった。
心臓が脈打つ音が速い
苦しいほどに締め付けられる
その後ろ姿が答えを探している
彼の眠る記憶の欠片を繋ぎ合わせるようにして。
のどかな田舎町、視界を遮るものはない。
河に未だに灯火を揺らして流れる精霊流しと合わさると幻想的な静の世界と躍動感のある動の世界のコントラストと音が夏の終わりを思い浮かばせる。
狛治と逃げると決めたその前の長夢で見た、鬼になる前の狛治とあの子はこの景色を見ながら愛を誓った。
そして祝言を上げることなく、毒殺という結果に散った恋。
どういう思いで思い出すのか
思い出した後、狛治はどういう選択をするのか
彼の幸せを願うのなら、
彼の結果がどうであれ笑顔で祝福すべきだと
頭ではよく理解している。
思い出す確率は高い。
既に、狛治はわたしの手を離し、
何かを探るように水辺の手前で空を見上げている。
理性と現実を受け入れられない感情が、
わたしをそこに縛り付けているように
足が動かない。
前へ進めない。
ただ、見ていることしかできなくて
涙を堪える涙腺が痛い。
逝かないで
自由になって
置いてかないで
あなたが後悔のないように選んで
どちらにせよ選べるのは彼だけだ。
「こ…………ゆき………」
わたしに背を向けた状態で
花火の轟音が響くのに
彼が呟いた、昔守りたかった許嫁の恋人の名を呼ぶ彼の声は
仕向けられたように聴覚が拾ってくる。
すがるような声で
後悔のと懺悔で滲んで
すすり泣く狛治の声が
わたしの心臓をきつく握りしめた。
狛治のまわりに
ホタルの光が集まるように
淡い光が彼を包む。
まるで
恋雪さんの魂の雪蛍を見ているような
美しくも悲しい
幻想的な光だった。