第8章 魂の雪蛍
わたしの
不安で押し潰されそうな心を
包んで守ってくれるかのような
筋肉質の硬い手が
握られた力の分
心を締め付けるようで痛い。
執着してはいけない。
執着してはいけない。
彼が決める事だし彼の人生だ。
彼の自由だ。
呪文のように心の中で唱えても
何か起こるであろう心のざわつきが
この先の未来をどう体現するのか解らない。
幸せを願うけど
願わくは、そのあなたの幸せが
"わたしと共に生きること"
で作られるものであって欲しい。
何度も不安になる度に
『君が大事だ』『愛してる』と
優しく言っては
抱き締めてくれた。
あの子も
人間に戻す手伝いをしたいと言ってくれているのに
行ってしまうと
深いところで自信がない。
きっとそれは
何百年の間
彼女との約束を
無意識に守ろうとしてきた過去が
事実として重く
ベクトルを傾けているように感じるから。
でも、思い出して欲しいとも思う。
あの子がそれを望んでいるはずだから。
狡いのは解ってる。
都合がいいのは解ってる。
心の弱さに呆れもしてる。
「悟さんが、教えてくれたところはここだよ」
そう言って狛治が足を止めた場所は
川の対岸の遠いところに山が見えて
残された命を懸命に振り絞って光を灯すホタルが戯れる。
そこは、あの子の夢の中で愛を誓った二人がいた風景と
地形が似ているように思えた……。
なんで……
あの子は、見ているの?
わたしたちがここに来たところを。
「どうした?泣きそうな顔をして……」
優しい声が鼓膜を揺さぶるの
返す答えが見つからずにすがるように抱きつくと
きつく抱き締めてくれる体温が涙を誘ってくる。
行かないでって
言いたいのに
言い出せない………。
信じきれてないわたしの脆さで
あなたの悲しい顔は見たくなかった………。
ここにはわたしたち二人だけ。
対岸ではお祭りの楽しげな雑踏がここまで響いていた。
花火までのカウントダウンが聞こえてくる
ふっと顎を捕まれて穏やかな瞳でわたしを見るあなたに
優しく触れるだけの口づけを落とされた。
一つ目の大輪が轟音と共に
上弦の月夜に瞬いた