第8章 魂の雪蛍
目的としていた川岸にたどり着いた頃
村の人たちが、寺の住職とともに灯籠や供え物を乗せた精霊舟を運んで、川に集まってきていた。
灯籠のひとつ一つにろうそくを灯して、故人を思いながらそれぞれが、大切な人の魂の冥福を祈って川に放つ。
桜華達も、細手塚家と共に日神楽家の魂へと祈りをささげ、桜華の生存を知らせるように、沢山の灯籠を流した。
日没後、辺りが暗くなるころには炎の朧気な揺らぎを運ぶ灯籠が、まるで命を投影したように見えた。
僧侶のお経が川全体に響き渡り、川のせせらぎと、灯籠の揺れるさまは幻想的で美しかった。
全てを流し終えた後、静かに流れる灯籠を眺めている狛治を見つけて声をかけた。
「狛治?どうしたのです?」
「普通の人間ならば、これらってただの行事で無意味に思うのだろうか。」
その声色は消えてしまいそうなほど儚くて、桜華は灯籠に何を見ているか分かった気がして胸が痛んだ。
「こうやって、亡くなった人を忘れられず、しかし暖かい気持ちで送り出している様を見ると、命の重さと儚さ、そして美しさを感じられずにはいられない。
よくもまぁ、そんな命を散々と奪ってきたものだと、罪にさいなまれる。」
「鬼は見た目は人間の姿をしていますが、同じものを食べれません。人が家畜を喰らうように、鬼が人を喰っただけ。
そういう体質にしてしまった始祖こそが厳罰に処され地獄へ行く。葬らなければならない。」
桜華は真っすぐに前を向いてそう答えた。
「今も望まずに鬼になるものが多いでしょう。
その者の多くは、人を喰らう事で記憶をなくしていったり、理性で殺されることを望む者もいるかもしれません。
稀で異例ですが狛治や珠世さん、その助手の方は鬼を滅する方へ進み、中でも狛治はこうして人間にほぼ近い状態になりました。
そうできなかった者の無念もあなたがだからこそ背負えるものではないですか?」
穏やかにそう返す様子は、変に取り繕った言葉ではなく、こころからそう思ったからこそ出た言葉だった。
「元上弦の鬼から、人間に戻っていくあなたにこそ与えられた宿命だとそう思っています。」
「その宿命を全うし生きてくださいませ。あなたもわたしももう一人ではないのです。なんだってできますよ。」
狛治の方に微笑みかけながら桜華はそう答えた。