第8章 魂の雪蛍
一通り屋台を回って、精霊流しの準備を手伝いに行き、
屋敷に戻ってきたのは5時を回ったころだった。
風呂で汗を流し、涼んでいると
「夜の御仕度しましょう?」
と美紀たちに呼ばれ、また着せ替えられた。
白と紺の幾何学模様に夏の花が咲く色浴衣に袖を通す。
「少し顔色が優れませんが、大丈夫ですか?」
「いいえ、どうして?」
「先ほどから少し表情が硬いなと思いまして...。」
「なんでもございません。また、昔を思い出していただけです。」
狛治の人間の頃の夢を見たといっても、おとぎ話のように思われるだけだと、誤魔化した。
「そうですか。あまりご無理はなさらないでくださいね。」
「体力には問題はございません。でも、気遣ってくださって有難うございます。」
そう言いながら安心させるように微笑んで見せた。
美紀は少し心配そうな顔をしていたが本人が大丈夫というならばとそれ以上何も言わなかった。
また、朝出掛けたように玄関に向かえば、紺色に白の縞模様の浴衣を着た狛治が立っていた。
二人とも胸には、昼に買った首飾りをしている。
途中までみんなで川まで向かうことになり、また賑やかに談笑しながら屋敷を出た。
悟が、また狛治の耳元で話をして、何かを聞かされて嫌そうな顔をし、話しかけた当人はおかしそうに笑っていた。
「随分、悟さんと仲良くなられましたね。」
「冷やかされて面白がられているだけだ。」
少ししかめっ面で膨れた顔をしてみせたので思わず吹き出すと小突かれる。
「でも、まぁ.....」
「かなり助かった。いろいろと。」
意味深な事を言うその表情は心からの感謝をにじませており、桜華は不思議そうにそれを眺めていた。