第8章 魂の雪蛍
「お昼になる前に海に行きましょう。」
と総勢8人で来た近くの浜辺。
8月半ばで海水浴に訪れる者はおらず、
同じように散策できたような親に連れられてきた子供のはしゃぐ声と静かな海が波の音だけを立てていた。
青空から降り注ぐ強い光が海を優しい水色に、浜辺を真っ白に照らす。
わたしの手をつないだままの狛治は、立ち止まってその親子の様子を眺めていた。
「どうしたのです?」
「いや、何かよく分からんが見ていただけだ。
長らく、陽光の光を浴びず暗い世界を生きていたからか、何を見ても、何を聞いていても心が動いてしまう。
世の中とは、こんなに綺麗なものだったのかと見せつけられているようだ。」
少し泣きそうな感傷的な声が鼓膜をゆらす。
わたしも地獄の中から引っ張り上げてもらってから
普段当たり前と思ってしまうような
景色も
生活も
人と話すぬくもりも
感じるものすべてが、感じる事が出来るということが
どれだけ幸せかという事を知った。
「そうですね。この世は、ありとあらゆるものが美しい。
生まれただけで幸福なのかもしれません。」
言った後で思い出す。父も同じことを呟いていたことを。
父は慈悲深くいつも目の前に広がる海のように太陽の光を受けて煌めく穏やかな海のような人だった。
幼いころから何不自由なく育ったと聞いていた父だったけど、その姿はどこか憂いを感じさせるところがあって、何かをずっと背負って生きている人の波動を常に放っていた。
ゆえに父の発する言葉は重みがあって、わたしたち兄妹は父に舞のほかにも様々な事を教えてもらった。言い聞かせられた。
あの波動はどうして生まれたのでしょう。
今となっては聞くことも出来ません。
天国でみんなで...、今頃どうしているのでしょう。
狛治の件も実際に父が関わっていました。
まだ、”父だけは”こちらを気にかけて見ていてくださるような感じがするのです。