第8章 魂の雪蛍
想いに更けてる時間が長かったのか、狛治がわたしの顔を覗き込んで、大丈夫か?と聞いた。
我に返ったわたしは大丈夫ですと答えると、そのずっと先で大きく手を振るみんなが早くと声を上げて楽しそうに笑っているのが見えた。
つないだままの手を引かれて走って、走って
こちらの様子を気にして振り返った狛治は、今まで見たことないくらい綺麗な笑顔だった。
あなたと出会ってから、初めてこんなに楽しい。
まだ、痣ほどに残っている薄い鬼の線の影は、今まで真っ暗だったトンネルを抜けてもう少しのところにいるのを感じさせる。
こんなに強い日差しでももう、その皮膚は体は焼けて灰になる事はない。
こんな日が早く来るなんて思いもしなかった。
でも、これは、神様がくれた”これから立ち向かう幾重にも重なった試練”に立ち向かう前の余暇なのだろう。
そう思えるほど、心がどこか端っこの方が感傷的で、ふと我に返ると涙が出そうなほど儚い。
久しぶりに声を上げて笑った。
たどり着いた目の前の”兄妹”の溢れんばかりの笑顔も、儚く眩しく映った。
「あんなに走っていたのに、息が荒れてもいないなんて」
とみんながわたし達を見た。
狛治と顔を見合わせる。
”受け継いだもの”はそれぞれ形は違っても同じもの。
父が引き継がせた力だ。
「あの父の娘ですから。」
記憶の片隅で優しく笑う父が鮮明になる。
あの日も楽しかった。
もう戻れないから
前へ進んで切り開いていこう。
つないだ手のぬくもりが、その勇気をくれるから。