第8章 魂の雪蛍
屋敷についてからは、桜華が経過を見ながら、水分を与えたり、着替えさせたりとかつて母にしてもらっていたように世話をした。
(わたしは、5年6年の期間が開いただけで、体が覚えてたからここまではなかったけど、父のあの力が全て注がれたわけじゃないとはいえ、本来の力ではないモノが注がれたのなら順応するのも大変ですよね。)
少し収まってきた荒い息と、穏やかになった表情を見てそんなことを考えていた。
同時に、父が狛治の夢の中だけに出てきているということに少しだけ羨ましさを感じて
「御父様は、なぜ、わたしの夢には出てきてくれないのでしょう....。」
頭の中では”今がその時期ではない”からそういう結果になっていることを悟ってはいる。
しかし、いろんな未知な出来事や、これからの重圧を思うと心細い面もあり、父と話したい思いは彼女の心の底にずっとあったのだ。
(だめよ、だめ。
御父様、御母様はわたしのことを信頼して現れないのです。
御兄様もきっと、みんなでわたしのことを見て応援してくださってる。
そして、わたしを支えられるようにするために狛治の夢にだけ出てきてるのなら、
わたしはわたしが信じた道を選んでいけばいいの。
みんなが助けてくれる。本当に必要な時こそ必ず....。)
父と母がかけてくれた言葉を思い出しながら、自分に言い聞かせる。
そして、
(狛治もずっと一緒にいてくれると言ってくれてるじゃない。
何も怖いものなんてない。)
そう思いながらまだ、熱が引かない燃えるように熱い手を握りしめた。
人離れした筋肉質な手が頼もしく思えて、眠る狛治に寄り添うように横になった。
「狛治、ありがとう。あなたがいてくれるだけで、わたしは何者にでもなれます。」
「愛しています.....。」
左手を伸ばして頬を撫でる。
人肌のように柔らかくなった感触が嬉しい。
少しだけ上体を起こして、反対の頬に口づけた。