第1章 解放
「バケモノだぁ!!」
男たちは大きな箱が乗せられた滑車をおいて、人を喰らう化け物に短刀や銃を向けて抵抗した。
「キーキッキキ」
獣の甲高い笑い声と男たちが断末魔をあげ、成す術なく倒れていく。
置き去りにされた滑車の上、大きな木箱の戸がスッと静かに開けられた。
ぬるりとそこからでてきたのは、一人のボロ雑巾のような着物を纏った女。
先ほどまで滑車を引いていた男たちの意識は、今や化け物の方に向いている。
その様子を見た女は意を決したかのような表情。
その刹那、
音もたてず素足で土を蹴り、深い深い森の奥へと一目散に走り出した。
切る風は冷たく、空は早秋上弦の月が照らす。
女の装いではその冷たさを遮れない。
ただ、それでも、
深く折れた傷だらけの心が最期に望んだことは
自分を虐げ凌辱の限りを尽くした男どもの手の中では死にたくないという願いだけだった。
宛もなく、望んだ死を願って
人も獣も寄り付かない深い森の奥へと
宛もなくひたすらに走り続けた。