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鬼ヲ脱グ【鬼滅の刃】

第1章 解放



どれほど走っても走り続けても変わらない景色


追いかける月と相まって


時間の感覚も、

距離的な感覚も、

数年ぶりに思いきり体を動かしたことによる体力の消耗速度も


何も正確に事を計るものはない。




ただ、足はもう傷だらけで、

血と泥に染まり、貫く枝も痛々しい。




傷を負った心では、痛みさえ気に留めず、

ひたすら走り続けるだけ。




痛みに抗う声も、危機に関する感度も、

もう全てがない。





女を突き動かすのは、ただ、


無意識に男たちの手から逃れたいという一心だけ。






息切れと、痛みで足が動かなくなり足を止めた。

無我夢中で駆け抜け、森の奥深くにたどり着く。

死に場所を求め、辺りを見渡した。








息を整えると川の音が耳にはいる。



そうか…………

ここで死のう。


女が川の音に向かって、足を進めた。



「人間の女がここで何している。」






突然、背後から声をかけられ

一瞬、犯罪集団の一人が追いかけてきたのかと大きく肩を震わせた。




しかし、追いかけてきたような息を切らした声ではない。


苛立ちそのものの声。








人間の女?


女はその言葉が引っ掛かり振り向いた。


「……………。」


鬼か問いたいのに、声がでない。


死を望んできた女には、恐怖はさえ感じられない。


そう。


女は今までのことで声も恐怖全てを捨てたのだ。

声さえ失ったその姿は、生を感じない。





声をかけた男は、紅梅の色をした髪に黄色で黒い「上弦」「参」文字が刻まれた瞳に、
血の気がない白い肌に無数の藍の線が刻まれていた。



ふと、女の網膜に焼き付いて離れない鬼と重なる。

しかし、その鬼は瞳に「上弦」「壱」と書かれた、古い時代の侍風体の男だ。

つまりは別の鬼。

「(上弦…鬼……。)」


表情が険しくなったものの口だけ動いて声を出さない女に、鬼はなぜか更に苛立ちを募らせる。


「怯えもしなければ、声も出さない。震えもしない。」


木の枝から降り立ち、鬼の男は女に近づいた。


生きるための最低限の機能と無意識の行動しか起こさない様子に



「生ける屍のような女だ」



と呟いた。







鬼の男も女も未だ互いの名を知らない。


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