第8章 魂の雪蛍
「些か相手に不足でしょうが、わたしがお相手しましょうか?」
突然の声かけに驚いて、集中力を切らせてしまった。
「桜華……!大丈夫なのか?」
昨夜は顔色も優れなかったというのに、短い鉄パイプを両手に握りしめ目の前に立っている。
「寝たら元気になりました。何やら悟様の木刀を置いて瞑想していらっしゃったので、刀扇に見立ててこちらを持って参りました。」
まだ夜も開けないというのにも関わらず、すこぶる元気そうでその顔には笑みを浮かべている。
「元気であるのなら相手をして欲しいが……、本当に体調は大丈夫なのか?」
「はい。この通りでございます。」
そうやって両手を広げて見せる姿に、それでは解らんだろうと呆れてしまう。
だが、元気そうな声色で顔色もいいので彼女の言葉を信じた。
「無理はするな。」
「はい!勿論です。」
「ならいい。
透き通る世界、無我の境地を試したい。全力でかかってきてくれ。」
「解りました。」
「その前に聞きたい。桜華は透き通る世界を見たことがあるのか?」
「あなたとの鍛練で大ケガを負いそうな拳が来たときに無意識にそうなります。」
淡々と答えるが流石は親子だ。
なのに、桜華に痣らしきものを感じたことがない。
まぁ、それはさておき、
「そうか。やはり桜華にも見えていたのだな。
どおりで掠りもしないわけだ。」
「え?手加減されているものかと……。」
「いや、型と舞が正確に一致してきている辺りから俺は少し手加減の幅を減らした。
だが、当たるどころか全く掠りもしない。
桜華は並の柱を凌駕するようになるだろう。
俺にとっては最高の相手だ。」
「有難うございます。」
外は、まだ風は強いが、いつの間にかあめは収まり、外にも出れる。
もう、俺は日に当たれるようになった。
「もうすぐ日が昇るが、俺はもう日に当たれるようになった。
外で鍛錬するか?」
「それはようございます!!
感慨深いですね!!是非ともお願いいたします。」
桜華は目を輝かせて、にこやかに答えた。
その手を引きながら、いつも鍛錬する場所へと向かった。