第8章 魂の雪蛍
その日の夜、日中あれだけ晴れていたにもかかわらず土砂降りで、立っていられないほどの風が吹き荒れた。
やむなく、借りている屋敷で桜華と時を過ごす。
「昼までの穏やかさがまるで嘘の様です。大風がきているのでしょうか?」
「不自然だがそうだろう。今夜は鍛錬できそうにないな...。」
そして夜が深まれば、桜華は少し貧血が酷いと先に寝た。
寄り添いながら眠りにつくのを見届けると引き込まれるように眠りに落ちた。
夜の一連の現象は何かがそう仕向けるよう。
でも、引き込まれていく底は暖かく激しい炎の中心部の様だ。
まるで懐かしい夢の中に引き込まれるように……。
狂い咲く藤の花房の下に、煌々と燃える松明が
舞を踊る男性と女性二人の踊り手を囲む。
一瞬で理解した。
男性の方は雄治さんで、これは桜華が言っていた、藤襲山で行われていた”日神楽舞踊”
これは雄治さんが見せている夢。自身の舞や武術を見せる『見取り稽古』をさせてくれているのだ。
桜華の舞もここにきて一度見せてもらった。
素晴らしかった。
でも、これが本流なのかと思わせるようなものだ。
息をすることを忘れてしまうほど
瞬きをすることを忘れてしまうほど
自分がそこに立っていることすら忘れてしまうほど。
まるで、鮮やかな太陽の炎を纏った精霊が舞うかのよう。
一瞬、気を取られてしまったが見とれている場合ではない。
あなたは優しい人だ。でも、俺に直接教えることが出来ないからこうして....。
「違う.....狛治。君が持っているもので事足りるのだ。
君に伝えたい事は技ではない。それ以外のすべてを見よ。
人間の時の記憶がなくとも人の心を戻した君なら
武道に精通していた君になら解るはずだ.....。
君に私が伝えたい事。」
なぜ、俺の過去を見たように言うんだ。人間時代、俺は武道家かなんかだったのか?
時々聞こえてた、俺の中に眠る声の主は
あの声はいつも武道、武の道を究める心を俺に説いていた。