第8章 魂の雪蛍
しばしの沈黙。
悟は集中するようなところに差し掛かり
その手は腕相撲をとるように手を握って、装具の密着度、安定感を確かめる。
その手や、装具をじーっと確かめるように見て、また針で糸を調整する。
狛治も悟の言葉に嬉しさと感謝で胸が熱くなり、次の言葉が出てこない。
その場に糸を縫う音だけが響く。
「必ず、鬼のいない世の中にしてください。俺にできることはあなた方がいかに鬼狩りに集中できる環境を整えることくらいです。
俺たちも、あなた方と同じような歳の頃で大人にも見られるようになり、色々任せてもらえるようになりました。
陰ながらですが、一緒に鬼になる者も鬼の存在で悲しむ人が出ない世の中を共に作っていきたいです。」
「勿論です。これから世話になる事が多くなります。
俺も人間の心を取り戻してから、今までを思い返すと自分の罪の重さに押し潰されそうになる日々です。
人間であることの尊さや有難さを身にしみて感じているんです。
鬼は孤独だ。信じられる仲間もいなければ、そういう友人もいない。”慣れ合わないように操作された生き物”です。
それに、鬼になって極度の飢餓から家族を殺し、苦しむ者も多く見てきました。
今になればそれがどれだけ苦しい事かも理解しています。
鬼は惨い、悲しい、虚しく残酷な運命だ。」
「俺の立場からもそれが無くなる事を切に願うんです。
だからこそ、桜華に助けられた分、俺は最前線で戦いたい。
しかしここで生活しあなた方の仕事を見せていただいて悟さんたちの力、存在がなければそれが叶わぬことであることも骨身に染みました。
悟さんや巧一さん方の存在があってこそ、俺たちは戦える。」
「あなたの言葉には当事者としての重みがあります。
そして、先代からも認められたのです。
狛治さんと桜華が鬼狩り様を引っ張っていく存在になれば必ず叶うと確信しております。」
悟は最後、作業する手を止めて狛治を見据え、穏やかな表情でそう言った。
「必ず期待に応えます。」
「お二人を支え続けます。」
作業台を挟んで二人は固く握手を交わした。