第8章 魂の雪蛍
狛冶が通されたのは細工、加工を施す部屋だった。
朱音が作業する手を止めて狛冶を出迎える。
木で作られた刀身同等のものが装具に装着されている。
細工、彫などの加工を施すのは朱音と悟が担当していた。
今の段階は、手の寸法に合わせてできたものをここで狛冶の手に実際に装着してより、手に馴染むように仕上げていく工程にある。
作業台を挟んで、悟と狛冶が座った。
装具をあてがったり付けたりしながら、針と特殊な糸で縛ったり緩めたりと微調整を施していく。
「こうして見せていただけると装着するのが待ちきれなくなります。」
作業を見守りながら狛冶がそうつぶやいた。
「はい。近日中にも完成いたしますので今暫くお待ちください。」
悟は真剣に針と糸に集中しながら答える。
「狛治さん、改めてこう見ると凄い手だ。人間が生きている間ではこんなに筋肉は発達しないでしょう。」
狛治の手を掴んで、まじまじと見て観察しながら感心した様子でそう言った。
そして、
「人を喰らってたという事実はどうやっても消えることはありません。
だけど、その年月、あなたが鍛錬したことは決して無駄な事ではないでしょう。
必ず、桜華様を支えるにふさわしい鬼狩りとなります。
あの時、酔っててひどい状況だったのに、俺、あなたと相撲で体つき合わせたの覚えてるんです。
言葉では言い表せませんし、戦士でもない俺が言うのもなんですが、感動しました。」
作業をする手を止めることなく、時々顔を上げて穏やかな表情でそう語りかけた。
「悟さん...。」
悟からかけられた言葉がじんわりと胸を温かくさせる。
「ずっと、ご一家と会う機会が少なかったのですが、それでも、先祖代々日神楽家に大事にされてきて一緒に歩んできたと棟梁や母から聞いています。
それを裏付けるかのように先代も俺にさえ優しく接してくださり、大事な親戚の叔父のように思っていました。
俺にとっても、日神楽家は家族で桜華様は初めて会いましたが、心では未だ会えなかった妹に会えたように思っています。
そんな桜華様が連れてきたあなたも、俺、男として大好きになりました。」