第8章 魂の雪蛍
「細手塚家は日神楽家の創業の時から親子関係でありながら、日神楽家が危機的状況に陥った時の保険のようなものなのです。
準備しなければならないものは全部歴代代表から預かっております。
そして、狛治様はその着物から少しだけ見える痣。
代表があなたをお認めになった証でございましょう。
後は完全にあなたが人間となるだけで、日神楽家は再び歩みを進めることが出来ます。」
「ですから、あなた方はただ目の前の鬼を狩ればいいのです。
全ては細手塚家と、珠世という鬼医者にお任せください。」
巧一は桜華に対して、力強くそう言いきった。
「準備が整い次第、こちらが準備しているものを目録でお渡ししましょう。
覚えておいてください。
日神楽一族は、決して生き残られたあなた方だけではない。
細手塚もまた御親族同様、繋がりの深い一族のようなものです。
我々も精一杯力にならせていただきます。」
そう述べる巧一の表情は真剣そのもの。
桜華ただ、頭を下げて
「有難うございます。よろしくお願いします。」
と返すしかなかった。
まだまだ父から聞いていないことが多すぎる。
それなのに、周りは自分が現れたことで大きく動き出そうとしていることを深く実感していた。
自分という存在の重要性も感じざるを得ず,
気持ちはどんどん焦るばかりだ。
でも、焦ったところで、わたしは次にどう動けばいいとか解るわけでもない。
会社ももうない。経営なんて教えてもらっていない。
事業の始め方も何もかもが振り出しで、
これからはその状態で鬼狩りを重点にやっていかねばならない。
正直巧一様の申し出はありがたかった。
でも、本当にそれでいいのだろうか?
わたしの中で晴れない心は、ありすぎる疑問と共に重くのしかかった。
何故鬼狩りの術を隠し持ちながら、400年商人で日神楽家がやってきたのは単なるカモフラージュだったのか、本業であったはずの事業で、産屋敷鬼殺隊を支えてきたのではなかったのか.....。
何故わたしで、何故これからなのか...。
御父様.....、あなたはわたしに何を見ていたのですか?
御父様が見ていらしたわたしは誰なのですか?