第8章 魂の雪蛍
日が高く上り
けたたましく鳴く蝉も、残暑を前に音色を変えてきた。
朝食が終わった頃
日輪刀の刃の部分が打ちあがったと、次期棟梁の巧郎が知らせに来た。
作業場に向かうと
巧一が出迎え、対の刀身を布が敷かれた三宝に乗せて二人の前に置いた。
その刃の切っ先は鋭く尖り、重厚な鋼色をしている。
刀身の根本には『日神楽』の文字と、刃全体に太陽の刻印が彫られていた。
「凄い!こんなに素晴らしいものを………」
武道家気質な狛治は目を輝かせて喜んでいる。
そして、それが自分のために、あれこれと真剣に話し合って作られたものだという事が解っていて、同じ敷地で汗水たらしながら作られていたということを知っているから、尚更である。
鬼の頃の記憶しかない狛治だが、今まで素手で戦ってきて、自分の武具がなかったこともあり、体の底からふつふつと感動と喜びで満たされていた。
「お褒めに預かり光栄です。
刀身は色変わりの儀式があるため、今は触れる事はできません。
しかし、その前に一度見ていただきたくお呼び立てしました。
細工は私どもの必勝祈願の思いを込めて一人一人彫らせていただいております。」
「.....有難うございます。」
三宝の淵を握りしめながら、まるで宝物を見ているかの如く目をキラキラさせている様子に、桜華と巧一は思わず顔を見合わせた。
少し瞳を潤ませながら童心のように、刃を見る姿が先ほど二人で話していた内容から何となく理解が出来た桜華はただ暖かく見守っている。
「そんなに喜んでくださるとは、職人として大変うれしいことでございます。
存外、狛治様も可愛らしいところがおありの様で、息子が一人増えたような気持でございます。」
と巧一が言ったことで、我に返った狛治は顔を真っ赤にしながら
「あぁ、すいません.....、嬉しくてつい見入ってしまいました。」
と言葉尻をすぼめて俯いてしまった。
巧一はその姿を微笑ましいと言わんばかりに表情をほころばせ、一つ息を吐いた。
「これからは、刃こぼれがあれば速攻で打ち直させていただきます。
代々日神楽家とうちは創業以来の付き合いだと聞いておりますので、末永くよろしくお願いします。」
狛治は両手をついて静かに頭を下げた。