第8章 魂の雪蛍
「やっぱり....。」
その言葉に反応して、狛冶も自分の前を見やった。
「これは.....
さっき見た時は痛みだけだったというのに。」
首筋から脇腹にかけて大きく焼きただれたような痣。
浮き上がって薄い桃色に色づいたそれは、生前父の額にあったくっきりと燃えるような赤と模様は同じ。
炎のような植物のような形。
「父の額にあった痣と同じ模様です。
狛冶。
確認しないことには正確な判断は出来ませんが、
あなたは父のような日の呼吸を扱えるかもしれません。」
いつになく真剣な桜華の表情に狛冶は息をのんだ。
でも、それは一瞬。
夢の中で見た鋭い太刀筋と、それに伴う強力な熱を発する漆黒の刃に、自身がそこまでなれるものとは到底信じがたかった。
「そうだとしても、俺は、雄治さんのような一本の通常の刀ではない。
同じような要領で舞うことは出来ない。」
狛治は、自身に訪れた突然の変化と与えられた力の膨大さからくる重圧に手に汗をかいた。
微かに痺れを伴いながら震えた。
「それでも、狛冶の体にその力が宿ったのならば、父が父の意志であなたに力を授けたのなら、
狛治がその力を使うことを望まれてしたこと。
父はあなたを認めたのです。」
桜華は冷静に淡々とそう述べた。
しかし心中は、いろんな感情が合わさって酷くざわついていた。
優しかった父が、死の世界からも自分を見ているのだという暖かい実感。
偉大で尊大だった父から正式に次の代替を言い渡されたような責任感と使命感。
そして、父の期待、希望に応える大きな一つの道筋ができたことで少しだけ現実味が感じられたこと。
「了解した。」
狛治の耳にも目覚める瞬間の雄治の言葉が聞いたまま耳と心に深く残っている。
「娘を頼む」と言われた事、桜華を託された。
彼女が抱える運命も、責務も支えていくために
雄治は自分の夢の中に現れたのだ。
そう思えて仕方なかった。
鬼の自分でも、桜華の心と照らし合わせて
任せていいと認めてもらえた。
決してその決断に泥を塗ってはならぬと
このとき強く思ったのだ。