第8章 魂の雪蛍
そういう話が二人の知らないところで繰り広げられているなか、
事と次第を話そうと、居間に来ている二人。
しかし、桜華は狛治から離れる気配がない。
不安げな表情で胸に頭を預けている。
「どうした?」
と聞いても、口を開かない。
とりあえず落ち着くまではと思って夢の事を話した。
桜華は話を聞いてて僅かに首を動かすのみで、着物の襟を掴んだままじっとしている。
狛治は特に急かすわけでもなく、言葉が出るまではと背を撫でてやった。
少しずつからだのこわばりが無くなってきた頃、ぽつりと
「いつも、あなたはどこかにいってしまいそうな気がするのです。」
と言った。
「どうしてそう思う?」
「狛治が鬼になって、追い求めていた強さとは、過去の後悔、やりきれない思いがあったのでしょう。
狛治は、思い出していらっしゃらないようだけど、
今、わたしに見せているあなた自身が、鬼舞辻に鬼にされる前のお人柄と変わらないとしたら、
強さに執着してしまったのは、誰かを守れなかったということではないのかと……。」
「そして、もしその過去を思い出して、そちらの世界が愛おしいと思われたら…………、」
そこまで話して、押し黙ってしまった。
その先は苦しくなって言葉にできなかった。
言葉を詰まらせて俯くと
「俺がそっちに行くのではないのかと?」
おおよそ見当がついた狛治はそういった。
「いつも憂いた顔をされているし、とても儚く壊れそうです。
先ほどは塵になってしまうのではと……」
尻窄みになる様子が、いつもより小さい姿に思えた。
それが少し後ろめたさを感じさせるも、それが、自分への思いの強さだと感じて頬が緩んでしまう。
愛おしさが増して抱き寄せる。
暑さで汗ばむが、もうそれはどうだってよかった。
「自分から消えようとは思わない。桜華がいるのに…。」
「俺がよく考えているのは、罪の重さの方だ。
今生きてる世界が嫌いなわけではない。
それにこの髪型……、今では大差がなくなって自由になったが、俺が鬼になった頃の時代を考えると、社会の底辺の底辺と賎しい身分だったはずだ。
たまに、桜華といっしょにいて恥ずかしくない人間になれるのかを自分自身に問う事がある。」