第8章 魂の雪蛍
暫く、その場で深呼吸をしてみた。
体が軽い。
桜華に習った、鬼狩りの呼吸法がいたについてたと思ったのがまだまだだったと思わせるほど。
体に変化があるなら、桜華に父親に会ったことは言おうと思った。
あとは、夜だ。
夜の鍛練で今のこの体の変化がどう俺の血鬼術に出るか、
人肌のように血色もよくなって、わずかに残る線が人間に戻りつつあることを感じさせる。
完全に人間に戻っても血鬼術の変わりに日輪刀が手にはいる。
何も恐れることはない。
何の根拠もないが、この先も変わらず俺は生きていけると思った。
そうこう思案しているうちに朝日が上る。
なぜか外に行きたくなった。
俺が長年逃げてきた陽光の当たる空の下へ。
廊下を静かに歩いて玄関へ向かう。
外ではもう、巧一さんたちが作業をしている音が聞こえる。
草履をはいて玄関の戸を開く。
真正面から朝日が俺を照らす。
痛くない。苦しくない……。
意図しない涙がたまる。
両手を太陽に向かって伸ばす。
暖かい………。
溜まってた涙が両筋頬に線をかいた。
「『狛治(さん)』」
何でこんなに暖かい………?
季節と今の気温に合わない風が俺の涙を拭うように過ぎていく。
ほのかに懐かしい桜の花の匂いがした。
もう夏も終わりが近いというのに。
桜華じゃない女の笑い声が聞こえる
あの時の………
桜華が目覚めない時に聞こえた声だ。
「………お前は………誰なんだ?」
溢れる涙がただ止まらない。
俺の記憶の中から聞こえるのか?
俺の人間だった頃の一番の後悔の対象者なのか、
胸が締め付けられるように切ない。
「狛治………?」
桜華の声気づいて後ろを振り返る。
愛してやまぬ女は、俺の方を見て涙を流して玄関から顔を出していた。
「もう、日に当たれるの?」
二人の念願だったそれが叶ったのだと、ただ、頷くことで精一杯だった。
それくらい胸の中はとてつもなく暖かだ。
泣きながら飛び込んできた桜華を精一杯抱き締めた。