第7章 残されていた愛 繋がる愛
「鬼に戻ることなく生き続けろ。
そこまで安心しきって腕のなかに収まっているような女を遺して早々と逝くなよ。」
「勿論だ。最大の努力はする。
俺に人の心を戻し、人に戻れる希望をくれた大事な女だ。」
そう言いながら、桜華様を愛おしげに見つめる狛治には、上弦どころか鬼の要素が強さ以外見当たらない。
俺に対しても、細手塚家にも。
こんな男が自ら進んで鬼になるなどないと思った。
「おまえが鬼になった理由はなんだ。人間だった頃の事を覚えているのか?」
「いいや……。でも、印象に残っていたであろう出来事の絵はよく思い出すのだ。でもそれが何で誰なのか喉元まで思い出しかけているのに一向に思い出せないでいる。
俺の人間時代の名前だけなぜか思い出せた。
ただ、体で覚えているであろうことによく反応する。
俺は鬼になってから一度も女を襲えなかった。
女を食えば強くなると教えられてもどんなに強い稀血であろうとも。
そして、自害しようとさ迷っていた桜華に出会った時、俺が鬼になる瞬間と同じ感じがしたのだ。
恐らく同じような状況の時に無惨に見つけられ鬼にされたのだと思ってる。」
互いが互いのもつ要素で引き合うように出会い、二人で困難を乗り越えて強めていった絆だ。
容易く切れるわけがない。
この男に鬼になるまでどのようなことが起きたのかと俺は関心をもった。
「それが桜華様を助ける引き金になったということか。」
そしてまた桜華様に視線をおとし、表情を和らげた。
「あぁ。そういうことだ。結果、俺が助けられてばかりだがな。」
この男は己に対する評価があまり高くない。
鬼が人の心と命を救うということは滅多になかろうに……。