第7章 残されていた愛 繋がる愛
狛治は歩き始めてからもずっと腕の中で眠る桜華様のことを気にかけていた。
それでも、俺が気を遣わぬよう気づかれぬように休ませたりと配慮まで忘れない。
狛治はまだ自分が鬼であることを卑下しているが、この男と話しているときは、鬼だということを忘れてしまうほど心根が綺麗だと思った。
そんな男だからこそ桜華様は、全てを委ねてその腕の中で安らかに眠るのだろう。
「杏寿郎……」
「なんだ。」
落ち着いた低い声も話し方も、いつも何かを憂いているような笑みを浮かべているのも、あの激しい戦闘からは想像できないものだ。
「おまえ、幼い頃から桜華の事好いておるのだろう?」
悪戯そうな笑みを浮かべて放たれた言葉の爆弾は見事に脳天を貫いた。
「な………何を……?!」
一気に体全身が羞恥で燃えるようだ。
「さっきから、おまえが俺と同じような心情で桜華を見ているように思ってな。
おまえは至極解りやすい。何事にも真っ直ぐで嘘がないのはおまえの評価すべきところだ。
かえって安心する。」
本当にそう思っているのだろう。警戒心はその穏やかな口調は微塵も揺らぐことなく、それが少し悔しく恥ずかしく思った。
「そこまで言われては否定できないが、俺があなた方に付け入る隙はない。
もう充分に解ったのだ。君に敵うことは一生ないだろう。」
「ハハハ。そこまで言うか。おまえはすこぶる面白いヤツだ。」
慌てて言葉を返したのがまずかったのか、会ってから初めて声をあげて笑った。
思わず大きな声を出したと桜華様を見て自制したものの今も肩を振るわせて笑っている。
「俺はもう鬼として人の倍以上生きてきたし、戦闘では再生力に頼りすぎて己が傷つくことを気にも留めないで痛め付けてきた。
恐らく、人間に戻ればガタがくるのが早いだろう。
桜華は死ぬまで譲る気は微塵もない。
だが、おまえみたいな男がいるなら、支えがあるのならこの身に何があろうが桜華はどん底に堕ちてもまた時間をかけてでも這い上がれる。
これからも仲良くしてやってくれ。」
狛治が抱えているものは今もこれからもずっと付きまとう"常に死が張り付いている"という現実……
それはあまりにも重いものに感じた。