第7章 残されていた愛 繋がる愛
二人が向かい合って構えを取る姿から
杏寿郎は、それは己が今まで見たことのない、体感したことのない威圧感と緊張感で息をのんだ。
(始まる前からこれほどまでに違うとは.....。上弦の鬼の力も、桜華様から感じる無の境地のもこれまで父上が鍛錬してきた柱達からも感じたことのないものだ。)
両者から聞き取る息遣いはそれぞれ違って独特なもの。
そして二人が纏う空気も、
灼熱の赤と月夜の優しく暖かい光。
紅梅色が蜃気楼を帯びて雪の結晶の羅針盤が妖しく光る。
(これが………鴉が言っていた血鬼術か………)
そして、狛治の血鬼術は鬼殺隊の呼吸法である全集中常中を取り入れて、桜華の"日""結""月"の呼吸の仕方も身に付けるうちに少しずつ変化し始めていた。
視線で頃合いを見計らい、息があったように二人が走り出す。
拳と刀扇がぶつかり合うそれは、災害のひとつと言っていい程の威力で杏寿郎は息を飲んだ。
空拳の赤紫の残光と黄色から赤い炎の光が入り乱れて宣言されたように人の姿がとらえにくい。
「桜華!もっと低くこい!速さは申し分ないぞ!」
「狛治!また再生に頼っています!もっと避けてください。」
戦いの中で聞こえる二人の声から、お互いがお互いの持っているもので互いに教え合っているという。
実戦さながらに見せられるそれは、
血鬼術も、鬼殺隊の呼吸を取り入れ強化したもの
桜華の武器も舞の様に戦う戦法も、彼女が操る呼吸も、
杏寿郎が今まで見聞きすらしたことがない現象が目の前で起こっていた。
(父上が日神楽の先代様を良く思っていらっしゃらなかったのは、これほどの力がある舞踊を剣術として使わなかったからなのか....。
しかし、なぜ桜華様の代で武術に転用されたのだろうか.....。
心強いと言えば確かにそうなのだが....。
まだ桜華様も知らぬようだ。
それを調べに行くとも言われていたが....。)
杏寿郎の中で様々な疑問や、確信、そして、現柱達との力の差を体感するなど、二人の戦いは大きなものを残していった。