第7章 残されていた愛 繋がる愛
結局は、3時間もの間杏寿郎は止まることなく走り続け、渾身の一撃で振りかぶった攻撃を狛治に避けられて膝を折った。
「杏寿郎、まだ立てるか?」
その声色は優しく、どう答えても答える相手を尊重するかのようなものだ。
「明日帰るのだから本当に立てなくなるまでやるな。
まだ、俺はお前と本気で闘いたい。お前が柱になる時、その力を使い果たせるような闘いをしよう。
俺はしっかりと覚えたぞ。煉獄杏寿郎。
お前は柱になれる男だ。」
杏寿郎は差し出された手を迷うことなく掴んで、よろけながらもしっかり立った。
「そして、鬼である俺を少しでも受け入れてくれたこと、礼を言わねばならんな。」
伏し目がちで切ない声色で言う狛治に目を見開いた。
自分の弱いところなど見せれる男などいない。
しかも、言った後は泣きそうな優しい笑みを浮かべながらもしっかりと前を見ている。
「君は体は鬼かもしれんが、もう心は人間だ。君の言葉には力がある。
どうか桜華様のためにも胸を張ってくれ。」
狛治の目は一瞬見開いたが、また穏やかな顔になり「あぁ。」と短く返事をした。
「俺はいつか柱になって必ずお前に勝つ。」
「俺も負けるわけにはいかんな。桜華がいる限りは。」
さらっと恥じらいもせずそういう狛治にむず痒さを感じて眉をしかめるも、
すぐに戻した。
「最後に、狛治殿と桜華様の闘う姿を目に焼き付けておきたい。
御館様にも報告しておきたいのもあるが
それをこれからの鍛練の糧にしたい。」
真っ直ぐに二人を見て太陽の如く燃える目で頼んだ。
「わかった。簡単には目で追えないぞ?」
桜華も刀扇を納めた鞘を取り出し立ち上がる。
彼女の心は二人に深く長い友情が芽生えるのを予感した。