第7章 残されていた愛 繋がる愛
狛治という男は
どす黒く深い罪と人間時代の深い悲しみと後悔の泥の中を懸命に根を張って力強く咲いた蓮の花のような男だった。
そしてその花を咲かせるきっかけは
如何なる荒波も凪に変えてしまうような
儚く強く優しいこの人でなければ
成し得なかった事だろう。
幼い頃より影でお慕いし
憧れを抱いてきた桜華様もまた
この男との出会いからか一段と逞しく竹のようにしなやかな女性へと変わられた。
そして前代表以上の上に立つものの気品と芯の強さを持って今この男と共にいる。
狛治は彼女を立てて自分はあくまでも彼女の裏方だと言わんばかりにしっかりと支えている。
世の中は男性優位必須社会の中、それが出来るこの男の精神の大きさと強さ、そして戦いに向けた情熱や信念に男として強く惹かれる。
そして上弦の鬼として認められた実力はホンモノで、歯が全く立たず、この木刀はかすることもなく、動きすら読み取れず、俺の体力ばかりがすり減っていく。
それでも、俺の何かを見て自分の中の過去をみるように俺に言葉をかけてくる。
その一つ一つがどれも重く感じられるのはその分己の過ちと向き合ってきたことを意味のだろう。
桜華様が惹かれ心許すのも分かる気がした。
この男の言葉は人の心に穏やかに燃料を注ぎ、じっくりと自信という地盤を支えて力を溢れさせていく。
「他人の評価や称号で自分を推し量るな。
何のために己が強くならねばならないのかを忘れるな!
見失うな!」
この言葉が心に刺さったのは、今の父がまさしく自分を見失っておられるのと、
俺自身がまだ心のどこかで父からの承認を求めてやまない気持ちを言い当てられた気がしたからだろう。
人は自分を見失っている間に後悔することを引き起こしやすい。
この男もそうだったはずだ。
桜華様を支えるように進む道を切り開いてやれる力を持っているように思う。
1年にも満たない間で過酷な環境を二人で支え合ってできたであろう強い絆には
俺や他の者が付け入る隙など何処にもない。
武人としても男としても広く深い男だ。
俺は疲労でもつれそうな足を懸命に動かして、その男の首を目掛けて刀を振り続けた。