第7章 残されていた愛 繋がる愛
杏寿郎は果敢に俺に挑んでくる。
その目は今まで遭遇してきた鬼がりが
何度も何度も立ち上がり、
俺に傷つけられてボロボロな姿なっても目の色を変えず
自分に刃を向けてきた柱達と姿が重なった。
桜華と出会い、それを皮切りに沢山の人間と出会った。
人間の心を取り戻した今
その姿を思い出せばまた自分がしてきたことの愚かさ醜さに胸が裂けるような思いだ。
だから、目の前の死ぬ気で挑む目を向ける杏寿郎が
生きてて欲しいと思う。
弱い人間を助けていけるような強い人間になれる
なって欲しいと思う。
だから……
「杏寿郎!お前のその闘志と果敢に挑んでくるその目は、俺が命を奪ってしまった柱達と同じ目だ。
お前は、自分より弱い人間を守る柱となれ!
お前には充分にその素質がある。」
もう走り始めて、俺に刃を振るい初めてかなりの時間が経つ。
それでも杏寿郎は
息切れする域に達しているその体に鞭打って
目の色を変えず、闘気も損なわず俺に挑んでくる。
それがどれだけ優れた精神力か今改めて感じる。
「挑んだ相手がどれだけ強かろうと
強い者が自分を守って倒れようと
自分を無力だと思うな。
最初は皆赤子と同じだ。守って貰いながらその者の技や強さを盗んで今日の自分に明日負けなければいい。
強くなればいい。
常に背比べする相手は自分自身なのだ。」
誰かに言われたような気もするような言葉をまた
お前に送る俺は
長い年月その事実を忘れ、人間を"弱者"と忌み嫌い罵倒し蔑んだ。
「他人の評価や称号で自分を推し量るな。
何のために己が強くならねばならないのかを忘れるな!
見失うな!」
お前や桜華は、おそらく人間だった頃の俺より強い精神力を持つ。そして、仲間も家柄もそれを支えてくれる充分な環境で育ったという過去がある。
俺はたった一度、自分を、強くなる目的を見失ったばかりに大きな代償を払ってきた。
もう、誰も俺のような自分がしたことを蔑んでしまうような過去は送って欲しくない。
だから、もう後悔しないために伝えたかった。
目的を見失って自暴自棄になり他人を傷つける弱者になって欲しくない。
君には届いてくれるだろうか。
俺の言葉に耳を傾けてくれるその真っ直ぐな強き心に。