第7章 残されていた愛 繋がる愛
杏寿郎は空いた時間に産屋敷邸に文を握らせた鎹鴉を飛ばした。
それが届いたのは夕刻ごろ。
日が傾き茜色に空が染まった頃、暗くなる様子を荘厳な庭園がみえる部屋から一人の男が眺めていた。
そこへ一羽の鎹鴉が足に文を巻き付けて畳に舞い降りる。
「杏寿郎、細手塚邸到着。日神楽桜華生存確認。息災ィ!息災ィィ!
詳細ハ、文二記載ィ!カァ!」
「本当か!やはり彼女は生きていたのか!」
男は連絡を受けると慌てた様子で鎹鴉の元に駆け寄り足元に括りつけてある文を受け取った。
「有り難う。君は休んでいいよ……。」
男はそう声をかけると自室に急いで入る。
その男の頬には止めどなく流れる涙と笑みを浮かべている。
文にはこう書いてあった。
『日神楽桜華様、御存命。
1年程前人拐いの手から逃れ精神を病んだ桜華様を助けるために鬼舞辻に反逆した元上弦の参である狛治という男と共に行動。
血鬼術の羅針盤は、桜華様と鍛練していた時の狛治のものだと判明。
狛治はそのまま桜華様の力で人間に戻り、鬼狩りに身をおくとの事。
狛治の厚意で鍛練を受けて御報告に参上致す所存。』
「君は………君という人はいつも私を驚かせるね……。
上弦の参も君も鬼を滅する方についてくれるのならこんなに心強いことはない……。
君は本当に運を連れてくる人だ。
私たちの代で必ずや鬼のいぬ世にしよう。
先代も私たちの邪魔にならぬよう
確実に鬼舞辻を滅するために
無惨が恐れた"最強の太刀"を振るわなかったんだ。
その無念を共に晴らそう………。」
文を握り締めた力の中にこれまでの両家の先祖を、父を想う。
「そして、君はいつ気づいてくれるだろうか……。
私と君の本当の最初の出会いを……。」
想いは強く言葉になって溢れ出る。
そして、優しく笑みを浮かべて何かを思案する。
「私の自慢の素晴らしい"子供たち"を紹介しないといけないね。
きっと君たち二人の力となり友となり得る。
まだ私たちは暫く会えないだろうから………。」
暮れゆく空を遠く眺めて男は呟いた。
二人の"当主"が顔を会わせるのは先見の目が強いこの男の予言通りまだ先の事となる。