第7章 残されていた愛 繋がる愛
昼食中
「うまい!」
「うまい!」
一口一口にハツラツとした大きな声でいいながら食べる杏寿郎に、細手塚一家も、桜華も狛治も呆気にとられて橋と茶碗を持ったままだ。
「うまい!」
そんな周りの様子などお構いもなく、本当に美味しそうな顔で、大きな一口を開けて食べ物が消えていく。
その奇妙な光景がつづくも、誰も声をかけず、大きな声が部屋に響いていた。
誰も止めない中、やっと声をかけたのは狛治だった。
「もう解ったから黙って食え。」
もちろん呆れ顔であるもののどこかその眼差しが暖かだ。
「うまい!!」
食事となれば上機嫌なのか、夢中なのか、声をかけた狛治に向かってご飯粒を口の端につけながら言った。
「これは聞いてないな……。」
「すごい癖の強い男だ。」
悟がぼそりと呟いた言葉もお構い無し。
「気にせずいただきましょう?杏寿郎も楽しんで食べてくださってるのならそっとしておきましょう。」
桜華も苦笑いで皆に食事を促すも、どこか楽しそうである。
おしぼりで杏寿郎の口を拭いてやろうと手を伸ばす桜華の様子を冷ややかな目で見る狛治だが、皆がいる手前止めることが出来ず悶々としていた。
それに気づかず、まるで弟にするかのような手付きで拭いてやっている桜華は、杏寿郎が顔を赤く染めて大きな声がでなくなったことにもお構いなしだ。
その反応に、更に狛治の眉間に濃い皺が浮き出るが、対して二人はその反応に気づかずである。
その3人の様子に笑いを堪えながら目をそらすようにして、一家が食事を始めた。
食後、桜華は片付けを始め、杏寿郎は悟についていって作業場の見学に出掛けた。
いろいろな嫉妬に耐えかねた狛治は、調理場で作業する女たちに断って、桜華をどこかに連れていった。
そこの様子を見ていた女たちが浮わついた生暖かい目で二人を見送りニヤニヤしながら作業に戻った。
今日も今日とて平和である。