第3章 無限城
猗窩座は呼ばれた屋敷にたどり着き、我が主の気配を感じ取ると秒も断たぬうちに跪く。
無惨の力で触らずとも開いた扉の奥に、幼い容姿とは似つかわしくない威圧を伴った桃色の鋭い瞳が、彼を見下すように向けられていた。
この屋敷の主人がいないからか、
禍々しい威圧の気が建物を軋ませている。
人間はもちろんのこと鬼にとっても
迂闊に動くことすら困難なほど
空気が重苦しい。
「猗窩座」
その場にいるだけでも重苦しく感じ取れる程の重圧。
殺気を放った視線が
上弦の鬼である彼にとっても
肌にビリビリと焼き刺さる程。
「猗窩座。貴様どこへ行っていた。」
予想通りにイラだっていることを、その声が放つ殺気で感じ取る。
何らかの影響で無惨が猗窩座の居場所を突き止められなかったのだろう。
こちらとて、他の鬼の気配など全く感じず、不思議に思っていたほどである。
無惨さえ、普段一方的に個々の鬼の様子や場所が簡単に解ることを理解していた猗窩座にはなぜそうなったのか検討もついていない。
「ここひと月ほど移動はしてはおりません。
なかなかお呼びにならないと思い鍛練がてら移動し始めたところでございました。」
「お前への交信がひと月途絶えた。死んだとも思ったが死んだにしては命の気配だけは消えず、何度も呼び出したのだぞ。
これをどう釈明する。」
予想した通りの展開。最近変わったことといえば、桜華が来たことくらいだ。それもこの方には脳内を探ればわかるだろう。
「申し訳ございません。手前には解りかねます。」
「人間の女の匂いがする。原因はその女か。
お前の思考を辿っても、気配のみでその女の姿が見えないのだが?」
猗窩座は戸惑った。そんなことは彼が鬼になってから200年以上経つにも関わらず一度も起きたことがない現象。
攻撃や捕食など見たモノも全てが追跡できる無惨が場所を把握する事も出来なければ、桜華の姿さえ見えてない。
聞いている方、聞かれている方共に全くわからなかった。
「原因はハッキリとは解りかねます。しかし、その女は酷く精神を病み、意志疎通がとれません。
今はその原因を探ることは不可能でしょう。」
期待通りの回答が得られない無惨は猗窩座の思考を読むも嘘を感じず、前代未聞の事態に眉をひそめた。