第7章 残されていた愛 繋がる愛
「失礼する。」
険しい表情のまま、礼儀正しく一礼して玄関に足を踏み入れた。
桜華の後ろをついていく。
しかし、杏寿郎はその身に強い鬼が故の禍々しい気配や殺気などまるで感じず、これから会うのは本当に鬼なのかと疑問をもつほどだった。
ただそこに感じるのは強者がいるというピンと張りつめた緊張感だけ。
客間の前にくると、桜華は杏寿郎の方へ向き、正座で中にいる鬼に声をかけた。
「狛治、お連れしました。」
「あぁ。かまわん。」
その声を聞いて桜華は障子をあけた。
「失礼する。
お初に御目にかかる。
鬼殺隊本部からの指示でここに来た。
俺は煉獄杏寿郎。
鎹鴉からたびたび強い鬼と強い見知らぬ呼吸を使う剣士の目撃情報があり、事の詳細を調査すべくこちらを訪れた。」
杏寿郎の視線の先には少し猗窩座の色を濃くした狛治が正座で少し視線を落として姿勢を正していた。
その視線をふっとあげると、くっきりと刻まれた『上弦』『参』の刻印。
強いと聞いていただけで実際その強さも鬼の詳細も知らずに来た杏寿郎にとってはまさに腰を抜かしてしまう程の驚愕的な事実である。
「上弦………の…参…………。」
「この座を捨てて半年になる。俺は上弦の参、猗窩座だった。
しかし、桜華を助けたことで人の心を取り戻してきた。
この目の刻印が消えないのは、無惨から逃げているからだ。
あの男の支配から逃れられているのは他ならぬ桜華の先天的な力が俺の傘となっているからだ。
今は人間の頃の名前で"狛治"と呼んでもらっている。」
色々はじめて視覚や聴覚から入ってくる情報の量と大きさに言葉がでない様子の杏寿郎に中に入るよう促し、
狛治は上座の中央を桜華に譲り、その後ろで足を崩した。
それは、桜華に『俺が支えるから当主でいろ』という、二人が細手塚家に来たばかりの頃の言葉を思い出させた。
(仮に桜華様が当主であったとしても、おなごをここまで自然に立てれる男など人間でもそういない……!)
杏寿郎もその行動と自然で堂々とした振る舞いに驚いていた。