第7章 残されていた愛 繋がる愛
「問題はございません用件は何と仰っているのでしょう?」
「はい。なんでも、最近、ここ辺りでお二人が鍛練している様子を鎹鴉が見かけ、その報告が数回続いたとのことでございます。
そして狛治様の血鬼術の羅針盤も見ているとのこと。
それ故に、こちらの家を尋ねてきたと申しております。」
「そうですか……。むしろそういった状況で今まで一度も鬼狩り様にお会いすることがなかったのがおかしいくらいです。
彼は顔馴染みです。
わたしが出向きましょう。」
朱音が安心するように笑いかけ、桜華は少し汗ばんだ前髪を整えた。
「狛治も同席してください。彼はあなたのようにまっすぐな男です。
他人の既成概念でものを見るような人ではありません。
真っ直ぐすぎて人の話は耳に入りにくいですが、人の誠を見てくれる。」
「かなり面倒臭そうだな。わかった。行ってこい。」
桜華も狛治も、いつかこのような出来事が起きるのは覚悟していて、至極冷静だった。
特に問題ないというような反応の狛治に同じ心積もりであることを悟って目尻が下がる。
はい。と返事をして部屋を出るときは、上に立つ者の表情になっていた。
玄関先に出ると、会話が丸聞こえなほどの声で話す男が視界に入った。
(間違いない。杏寿郎です。どうして強力な鬼がいるというのに柱どころか隊士かも解らない少年を………。)
疑問に思う点をたくさん抱えながらも彼と、巧一が話をしているところへ歩みを進めた。
こちらに気づいた二人は顔を向け、杏寿郎に至っては、驚愕した様子で固まってしまった。
「細手塚殿………俺は夢を見ているのでしょうか………。
日神楽 桜華様がこちらに歩いて来られるのですが……。」
そういいながらも大きく見開いた目は戸惑いで揺れていた。
「今は朝でございますよ?それにしっかりと地に足がついております。
久しいですね。大きくご立派になられました。
杏寿郎。」
穏やかな笑みをうかべ、懐かしいという思いで話しかける。
話しかけられ声を聞いて、夢でも幽霊でもないと悟った彼の目は切なく揺れた。
「まことに……」
杏寿郎と呼ばれた男は溢れる涙を押さえ込むような表情になり、桜華の前で跪いた。