第7章 残されていた愛 繋がる愛
「さぁ、始めよう。俺は今狛治ではない。
上弦の参"猗窩座"
日神楽家38代当主、桜華、お前の素晴らしいと言わしめた至高の舞で俺に挑んでこい。
宴の時間だ。」
挑発めいた口調はまさに彼が鬼だった頃の姿。
薄らいでいた刺青もくっきり浮き上がり無機質な白い肌。
殺気が彼の周りを青く包んだ。
「わたしは日神楽家38代当主、日神楽桜華。
猗窩座。その胸をお借りさせていただきます。」
桜華の体の軸を深い紫、外に放つ炎より熱い陽炎がゆらゆらと包む。激しい炎ではなく静かに闘志を燃やす。
息づかいの音が静かにホォォォと月夜の闇に引き込む
カチッという音と共に口許に当てた刀扇の刃が縦に開き
桜華の目は見開かれた。
「月の呼吸 壱ノ型 闇月 宵の宮」
刃一枚一枚から放たれる三日月の明るい黄色をした回転する斬撃は
粒子状の三日月の集まりが織り成す優しい光ながらも残酷なモノ。
猗窩座は空中で体を後ろ向きに漠転させてそれを避けた。
「面白い。俺が知るものとは全く性質が異なるが、その刀扇の精巧さと使い手であるお前の力と動きで繰り成す技……!見事だ!
もっと技を見たい」
流暢に話しながら猟奇的な笑みで突進してくる。
彼はまだ血鬼術すら使っていないが、その速度は普段の比ではない。
本気ではないものの戦闘体制で拳を叩きつけてくる。
それを桜華が表情ひとつ変えずにふたつの刀扇の面を刃立てて受ける。
当然、猗窩座の拳からは一瞬血が吹き出すものの次に放たれる拳は無傷の状態だ。
刀扇の縁の刃を突き立てた勢いで間合いをとり
「月の呼吸 伍ノ型 陽写月面鏡(ヨウシャケツメンキョウ)」
刀扇の面を平らにして横に振った風圧が粒子状の三日月の大群の月の壁になって猗窩座の拳の連打を防ぎその拳や体の表全てに突き刺さる。
一瞬見ることが憚られるくらい酷い姿になるも瞬く間に再生しながら間合いをつめようと速度を変えず走ってくる。
「見た目は優しい光なのに性質は太陽のように熱く鋭いな。
もっと力をつければその後の技で鬼の頚を容易く落とせるようになれるぞ!」
「はい!」
愉しそうに口角を上げながら拳を叩き込む。
しかし、それは桜華が交わせると信じているが故に成せること。