第7章 残されていた愛 繋がる愛
ひとりで2つの家族分の洗濯物をするのは思いの外量もえげつなく、それでも、誰かのためとなれば力もわくもの。
細手塚家に入ってくる注文は刀を持つことを禁じられた今でも、包丁や、縁起物の飾り刀の注文が多い様子。
それは朱音の刃物に彫ったり浮き上がらせる模様は天下一品といわしめるほどの精巧なものだからこそ。
注文数が多いことから、家事が疎かになることも多く昼夜も食事を取り忘れることもあるほどだと言う。
使用人もひとりいたが辞めたばかりだったそう。
それを聞いて
「ほとんど昼からになりますが、わたしの鍛練にもなりますので遠慮なく申し付けください。」
と桜華が手伝いを申し出たこともあり作業に専念できたようで感謝していた。
一通り作業を終えて狛治を迎えに行く頃には日も暮れ初め遅い食事の準備が始まろうとしていた。
離れにつくと玄関にはすでに狛治が出る用意を済ませてそこにいた。
「たまには相手しろ」
狛治と目が合うなりそう言われた。
ちょっと拗ねた様子で口を尖らせていたのを子どもっぽいと思って笑ってしまいそうなのを押し込んだものの、
「今、子どもっぽいと思っただろう」
と言って頬を引っ張られる。
「はふひ!いはいへふ!」
抗議の目で睨むも
「何言ってるかわからん」
と言って可笑しそうに笑いながら離した。
「もう」と悪態をつきながらも、自然に頭に置かれた手と、その後の表情が暖かすぎてそれ以上は言えなくなった。
母屋につくと早々に狛治は一家の男衆に引きずられて居間の方へ行ってしまい、その様子に苦笑いしながら、女性だけで食事の用意を始めた。
「随分懐かしそうな悲しいお顔をされますね。
ご家族を思い出しておられるのですか?」
汁の具材を切っていると
巧一の長女 早紀(サキ)が声をかけてきた。
「はい。懐かしゅうございます。
少し昔を思い出しておりました。」
「事情は父から聞きました。それに、桜華様だけが生きている可能性があるとされた日皆と話したのです。
もし私たちの屋敷に訪ねてくることがあれば、家族のように受け入れてあげようと皆で話していたのです。」
根菜を鍋に移しながら、当時を思い出すように早紀が言った。