第7章 残されていた愛 繋がる愛
狛治はしっかりと桜華の手を握りしめて、その瞳を見据えて思いを伝えた。
「桜華は思うように走れ。進む道は同じなんだ。
だが、けじめとして最低限、奴の支配から完全に外れ、陽光に当たれて完全に血肉を食らわずとも生きていけるようにならねばならん。
その時、同じ姓を背負わせてくれ。
それに相応しく生きたい。」
「はい。わたしも、そう言ってくださるあなたがいれば何にだってなれます。
だけど、こうして二人でいるときは今までと変わらずにこうしていたいです。」
「そうしてくれないと困る。」
おいでと広げられた腕に桜華は身を預けた。
「だが、桜華が育った世界に戻れば敵が多そうだ。
いろんな意味でな。」
愛でるように撫でて、悪戯に笑いかけた狛治の顔は色香を引き立たせるように月明かりが照らした。
その様子にどくりと胸がなり、頬を染める。
「あなた以上の人はおりません。」
と胸に顔を埋め、襟をつかんだ。
「君のその煽る言葉は無意識なのか?」
「何がですか?」
素知らぬ顔で、少し薄くなった鼻筋の藍の線を指でなぞり、頬を通って首筋に巻く藍の線を辿る。
「意味が解らなければそのようなこともしないぞ?」
「だって、もうすぐ無くなるから……。」
狛治は"猗窩座"の象徴の線をなぞった手首をつかみ、腕に優しく噛みついた。
ぷつりと犬歯が血管を貫いて行き場を失った血液を舐めとる。
ざらりとした舌の感覚に全身に甘い痺れが行き渡る。
鬼の爪で自身の鎖骨近くの頸筋に傷をつけ、その手が桜華の頭をそこへ引き寄せた。
男らしく武道家の鬼として鍛えられた筋を藍の線が引き立たせて視界から昇らせてくる。
鎖骨との段差を舌でなぞるとごくりと喉仏が動いた。
その表情が見たくて視線を上げると熱を孕んだ黄色い瞳の『参』が青を纏って艶めかしく見下ろしていた。