第7章 残されていた愛 繋がる愛
桜華は身が引き締まる思いと共に、猗窩座がそこまで考えてくれていたことが堪らなく嬉しく、目頭が熱くなっていた。
しかし、そこまで言わせたからにはと、気を引き締めて涙を堪え、「有難うございます。」と頭を下げた。
その様子を見ていた巧一が目を細めて
「猗窩座様は、まるでお社を守られる狛犬のようですね。
いや、狛犬ではいささか小さすぎる。
獅子といったところでしょうか。」
と言った。
「え.....。」
猗窩座の心の中に『狛冶の狛は狛犬の狛か.....』という懐かしい声が聞こえた。
そして、その『狛治』という名が自分の心に染み入るような懐かしく安心感をもたらした気がした。
そして思った。それが自分の名前に違いないと。
「狛犬ですか……。俺には人間の頃の記憶が殆どありません。ですが、そういって貰えて、昔、その字で狛治と呼ばれていたような気がします。」
そういって、猗窩座は涙を一筋流し、腕で拭う。
桜華も感慨深くその様子を見守り涙を流し、猗窩座の背を擦った。
「そうですか。手前の一言で思い出すきっかけになれたのなら至極幸いです。
思い出せたのならそれをお使いなさい。
猗窩座様の名の字も響きも、今の君には似合わない。
そうは思いませんか?桜華様。」
そうって優しく微笑みかける巧一が、桜華には、どことなく狛治に似ているような気がした。
桜華は涙を拭きながら
「わたしもそう思っております。彼には助けていただいてばかりで、いつもわたしに良い言葉をかけてくださいます。
決して役立たずな守り人ではございません。」
と言った。
「狛治さんとお呼びしても良いですか?」
桜華自身もおにの名前で呼びたくないとは思っていても、本人が思い出すまではと鬼の名で呼んでいた。
だからこそ
もう思い出してくれたのなら良いと思っていた。
呼びたいと思った。
猗窩座改め、狛治は
「あぁ。それが嬉しい。さんは要らない。」
と桜華に
「巧一さん、有難うございます。」
と巧一に礼を述べて頭を下げた。
ちょうどそこに帰ってきた朱音は、幸せそうな雰囲気に戸惑うも、笑顔で巧一のとなりに腰かけた。