第7章 残されていた愛 繋がる愛
夕刻。
日没を迎えて、村では炊事の煙や湯気が上がる頃。
用意していた余所行きの着物を着て
宿を出て二人で歩き出す。
心配していることの一番はやはり、まだ鬼である猗窩座を受け入れてくれるかどうか。
父や親族ともどもお世話になっていた方だ。
わたしが生きていることも、何か言われるだろう。
細手塚家の方々は1度だけあったくらいでほとんど覚えていない。
唯一、当時30代半ばで後継ぎになったばかりの姉弟の鍛冶職人から、わたしたち兄妹の祭りでつかう扇と刀を受け取った時よく話をしてくださったのは覚えている。
姉の方が朱音(アカネ)弟の方が巧一(タクイツ)だ。
となりにいる猗窩座も、緊張した様子で面をつけた状態で歩いている。
今更何様だと言われても仕方ない。
便りもなしにいきなり現れるんだ。
何を言われて追い返されても仕方がない。
それでも生きるために引き返すわけにはいかない。
それに、誰も生き残りがいない今、
事実上、世間体に見ても、わたしにいくらその資格がないと言ったところで、わたしが現当主として見られる。
しっかりせねばならない。
猗窩座を不安にさせないように振舞っているものの
手が震え、痺れるほど緊張している。
ただ、「何が起きても、次に何か突破口があるから。」
と声をかけた。
あたりが暗くなったころ、調べた住所にたどり着き『細手塚』の名札がかけられた屋敷を見つけた。
意を決してその戸を叩く。
「細手塚様、夜分に申しわけございません。
日神楽桜華でございます。
突然の訪問、お許しください。
いらっしゃいますでしょうか。」
突如、中から慌てたようなドタドタという音がして、こちらに向かってくるのを感じた。
そして
「日神楽様???」
と二人で聞こえた苗字を確認するような声。
「ほ..........本当に日神楽様でございますか???」
仕切り戸を挟んで、女性の声がした。
聞いたことがある。
『朱音様』の声と波動。
「はい。日神楽桜華にございます。
朱音様ですね?突然の.....」
言い切る前に仕切り戸はバンと音を立てて開けられ、女性が出てきた。
わたしの顔を見てすぐに涙をためて、朱音様はわたしに飛びつくように抱きついた。