第8章 激裏■夢は終わらない■狼66号と兎77号
狼である俺に懐いているとはいえ、肩やら背などに顔を擦り付ける。いつからだったか…、こいつを保存食感覚で拾ってしばらくしてか。狼だと知っていても怯える事なく、些細な事での会話、主食が違っても共に食卓を一緒にする事を経て種族が違うというのに、獲物である兎だというのに食う気がしなくなった。
森の隠れ家の庭、薪割りをして斧を地べたに置いた俺に、名前を呼んで駆け寄ってきたが背にわざわざ回り込んで抱きつく。
──ほら、まただ。顔をすり寄せている。
にこうされるのが嫌ってワケじゃねえ、むしろ寝床でひっつかれるのは暖かくて、良い匂いで柔らかくて、孤独さもなくて嬉しい。
……が、時と場所ってのがあるだろ。今は冬に備えて薪を作ってるんだ、薪は割ってから乾燥させないと使い物にならねえ。早めに割って干すべきだった。
だから頻繁ににひっつかれちゃあ仕事が進まん。
「何を甘えてるんだ、薪割りの邪魔だろーが…」
『だって、なんだかこうしたいっていうか…安心するっていうか……』
全く……、回された腕を掴んで解き、両肩を掴んで説教タイムとする。
少し屈んで、の身長(といっても俺よりも10cm前後下程度だが…)に合わせた。走り回っていたのか少し呼吸を荒げていた。
「いいか、ずっとそう甘えられるとやるべき事が出来なくなるんだ。お前が元気なのはいいが、家に入って昨日持ってきた落花生でも大人しく剥いてろ、いいな?」
『でも…、』
「言い訳はするんじゃねえ、。実際すり付かれるのは嫌じゃないさ、だが今は止めとこうな?やるべき事をやるんだ」
肩に置いた手で、いや親指での頬を数度撫でた。いつもそうやってるワケじゃねえが、たまたまそうしただけ。
ただそれだけ…、たったこの行動でのの反応で全てを俺は理解した。
『ひゃうっ、ん…っ!』
「……っ!!?」
驚いた。メスの声だ。
それはまるで交尾中の……オスの愛撫や交尾によがり、感じて嬌声を上げ、子孫繁栄の行為を感じ悦ぶメスの鳴き声。種族が違ってもこればかりは分かった。
活発に動き回ってた少女だったはもはやとっくに成熟したメスの兎となっていた、いつの間にか。