第8章 激裏■夢は終わらない■狼66号と兎77号
(狼66号と兎77号/ゾンビマン)
~夢は終わらない~
ガサガサ、と藪をかき分けて進む。鬱蒼とした森の中、俺の視界内でぐるぐると回る小虫を手で払って退け、周りを見渡した。
実験体としての不死がこの身に宿っている。そうだ、食わずとも死なない、生きていけるんだ……が餓死して生き返るまでは口寂しいもので何か口にしたかった。
だからだ、獲物は居ないかとこうやって探し回っていた。
……こ…はこ…♪
「……あ?」
頭上に生えさせられた三角の耳を動かし、音を収集する。
今、やけに幼い声が聴こえた気がしたが……?と背を低くして待てばまたか細い声が聴こえた。
聴こえてくるのは多少ズレているが、僅かにリズムのある歌声というべきか。
その方向へ進んで木の幹に身を隠し、そこから顔を覗かせる。
『はこはこはこべ~♪』
森に僅かに日の差す空間。そこは雑草がよく育つんだろう、小さな草原となっている。そこで人間の子供がぺたりと座り込んでいる。
繰り返しぷち、ぷち、と草をむしっている。
こんな所に何故人間が…?と思ったが頭上の白く長い耳を見て確信する、俺と同じ様な実験体……兎だ。俺と同じく人型の。どう見たって偽物ではない本物の耳だった。
背後を取るように身を隠し、その兎に近付いた。警戒心の無い兎だ、周りも見ずに楽しげな姿には捕食者としても心配にもなる。簡単に殺せて、食うことが出来ちまう。
……しかもこの子供の兎は痩せていて食べるにも向かんだろ、こいつは。太らせればまだ美味いかもしれんが。
「おい」
『かったばみー………えっ?』
まだ少し幼い子兎は少し振り向き、そのまま頭上の俺を見上げる。揺れる耳が少し可愛らしいと感じる。
ある程度の年齢は重ねているようだが、それでも幼い。人間であれば10歳前後の育ち方か?まだまだガキだ。成熟してねえし、全然栄養も足りていねえ。
「おい、お前ひとりか?」
『……うん』
「名前は?」
『77号……あっでもね、本当はっていうの』
やっぱりだ、サンプル番号を吐き出した。きっと進化の家から逃げ出したんだろうな。
同郷のよしみだ、とこの兎を、を手元に置いておこうと俺は考える。痩せてるし、もう少し育てて太らせて食えば良い。
それに俺ひとりで過ごすよりは食われるまでの間は話し相手にでもなるだろ。暇つぶしには丁度良い。