第5章 ■セイントバレンタインデー(if)■
片手で食べる前から口を抑えている。
腐ってないよね?それともブラウニーは嫌いで吐き気とかしてる?
震える肩を僅かに揺らして名前を呼んだ。
するとゾンビマンは声を押さえた状態で話を零している。
「……ジーナスに頼んでコレ、永久保存して貰う…」
『えっまさかの観賞用にするつもり!?そこまでしなくて良いからっ!ほら、毎年…作れるしさぁ』
「本当か?それは来年もと一緒に居られるって事だよな?」
喜びが表情に漏れてる。それに合わせ私も頬をほころばせた。
ああ、そうそう。フブキに昨日教えてもらったんだった。
"最近はね、恋人が贈る時に思いも伝えるのよ?ハッピーバレンタイン!誰誰好き、とか誰誰愛してるわーって"
『ここで言うのもなんだけれど……』
「あ?」
ああ、勇気がいるなぁ。
『…ハッピーバレンタイン、ゾンビマン。好き、だよ?』
固まるゾンビマンは、包みの入っていた紙袋にブラウニーをしまうと私に向かう。
「おう、ハッピーバレンタイン、。俺もお前を愛してるぜ?」
伸ばされた手。引き寄せられる後頭部。貪るようなキス。
熱いね、と番犬マン。火照る私の頬と、勢いよく突き飛ばして尻もちを突くゾンビマン。
私達の初めての、とてもとてもあまい、バレンタインデー。
──「今頃スウィートバレンタインデーを過ごしてるのかしら?」
リリーと談話するフブキは暖かい室内から窓の外を眺めて言った事を風雷暴は知らない。