第5章 ■セイントバレンタインデー(if)■
……そんな協力があってのバレンタインデー当日となってしまった。
武装してるとはいえ私服なんて着てしまったよ…これじゃあバレンタインに気合入れてるみたいだ。
ただ、チョコレートをあげて一言伝えるだけでしょう?
街中はいつもよりもカップルが多い。
待ち合わせ場所に合流して、贈り物して抱き合ったり、キスしたり。仲が良いなぁ…よく人前でやるよ、と私も彼氏である同業者、ヒーローを待ちぼうけしていた。
私に近付いてくるゴッゴッゴ、という重いブーツの音。
振り返れば寒い空気の中、ゾンビマンがやってきた。ちっともあったかくなさそうな顔をしている。寒そうでもないけれど。
「おう、待たせたな、」
『ゾンビマン……』
後ろに隠し持った、包みの入った紙袋。
ただこれを渡すだけなのに。さっきまでの恋人達を見ていたら、自分がその立場になったら急に恥ずかしい。緊張する……!
「ん?どうした?」
少し屈んで明らかに様子のおかしい私を覗き込んでいる。
「がんばれー、風雷暴の」
『うっうるさい!ちょっと番犬マンは黙ってて!』
……そうだった、ここはQ市。待ち合わせ場所は番犬マンの前だった、きっと鼻の良い彼には丸わかりだ。
俯いた顔を上げると、視線が合った瞬間に蒼白で、緋色の瞳が笑う。
「いつまでも待っててやるよ?」
『~~~っ!』
ええいっ!と隠し持ってたモノをゾンビマンの胸元に突きつける。
流石に急な動作に驚いた彼は数秒してからそれを受け取った。
『バレンタインデー、だから……』
「…おう、こんな可愛らしいシチュエーションで貰ったのは初めてだ。中開けても良いか?」
ちら、と見上げりゃニヒリストな彼にしては嬉しそうだ。
寒空なのに顔が、胸が温かい。
『どうぞ。フブキやタツマキ達と作ってね、』
「…ほー、」
パシャ、と携帯端末で撮影し、がさがさ、と包んだラッピングやリボンを外していく。
『材料は皆一緒だけれど、基本私の手作り……なんだよね』
「……」
パシャ、と撮影する音。
「手作り…?本当か?お前の……手作り、お前の…」
『その壊れたロボットみたいな言い方止めてよ…本当に手作りっ!味は保証する。結構、上手に…作れたんだけれど……、』