第2章 例のあの部屋シリーズ② 冨岡義勇の場合
考えすぎだろう、と義勇は考えるのを止め、さっさと湯浴みを済ませて浴室を出ると、用意されていた浴衣に袖を通し、扉を開けた。
そこで一瞬、思考が停止してしまう。
来た時と同じ扉を開いたはずなのに、そこには見たこともない部屋が広がっていた。
パタン。と後ろで、今開いたばかりの扉が閉まる音がした。
(!?)
慌てて壁を探るも、取っ手ひとつない壁が広がるばかりだ。
「無駄だよ、ここからは出られない」
突然の声に振り向くと、そこには一人の見知った女性が立っていた。
「お前は…」
「おや、嬉しいわね!覚えてくれてたんだ」
「………」
同期の名前はひとり漏らさず全て覚えていた。だが、何と答えていいかわからず、黙ってしまう。
「ここはね、宇随さまの故郷に伝わる秘密の部屋。心ゆくまでまぐわい、初めて扉が開かれる」
「まっ……」
目が点になる。何を言っているのか、理解に苦しんだ。
そういえば、彼女の後ろには何故か大きな布団が敷かれている。殺風景で真っ白な壁が広がる世界に、それは異様な空気を醸し出していた。
「引退したとはいえ、元水柱さま。宇随さまの元弟子がひとり、が責任をもってお相手させていただきます」
手をひかれ、布団の上に座ると、義勇はやっと重い口を開いた。
「…その、敬語はやめろ。俺はもう柱でもない」
そう言ったが、本音は違う。義勇の記憶にあった、明るく快活で、誰にでも同じ様に接するの記憶の方が、今の彼女とかけ離れていたからだ。
「…そう?ふふっ、ほんとは私も堅苦しくって。でも流石に前みたいに冨岡って呼び捨てにはできないわね。立場が違いすぎるもの」
最終選別で過ごした日々を思い出す。結果的には悲劇で終わってしまったが、道中は決して辛いものではなかった。
破竹の勢いで鬼を倒す中、皆が仲良く過ごせていたのだ。
中でもひとり抜きん出て強く、位もどんどん上がっていった義勇の事は同期の誰もが尊敬していた。
「……ありがとう」
ぼそり、と言葉を紡ぐ。すると、はため息を吐いてこちらに詰め寄ってきた。
「はー!だめだめ!地味なんだから!もっと派手にやりましょう」