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【鬼滅の刃】杏の枝 ♦ 短編 / R18 ♦

第2章 例のあの部屋シリーズ② 冨岡義勇の場合


「お前も、嫁のひとりぐらい貰ったらいい。家族はいいぞ」

「ひとりぐらい……」

普通、嫁はひとりではないのだろうか。口にはせずに義勇はそう思った。この男の、歯に衣着せない自由な物言いは突っ込みどころが多いものの、決して嫌な感じがしないのが不思議だ。

「そんな未来を想像した事は…なかったな」

ことり、と杯を置く。運ばれてきた昼食に箸を伸ばし、食べようとするが、聞き手じゃない為か、とてもゆっくりになってしまう。

「ほらほら、そういう時もだ。誰かよこそうか?」

同じ片腕しかないのに、宇髄はひょいぱくひょいぱくと軽快に食べ進めていく。以前、理由を聞いた事があったのだが、忍だからという答えだった。

「いや、いい。それだと上手くならない」

あくまでもゆっくりと、マイペースに食べる。それを見て宇髄はやれやれと肩を竦めた。

それからしばらく、昼餉の時間がゆっくりと過ぎていった。自分からしゃべる事は滅多にないが、宇髄や彼の家族が談笑しながら過ごす姿を見るのが、実は好きだった。何故か、自然と笑みが浮かんでくる。こんな事は以前にはなかった。

(少し、飲み過ぎたのかもしれない)

体はぽかぽかと温かく、頭は少しほわほわとしていた。

「冨岡、風呂入っていけ。今日はまだまだ飲み足りん」

「いや、俺は…」

「入っていけと言っているんだ」

先輩の言うことには逆らわない方が無難だ。じっと宇髄を見つめると、彼はにやりと笑ってみせた。仕方なく重い腰を上げる。

「まきを!案内してやってくれ」

意味ありげな笑みを浮かべる夫に何かを察したのか、まきをは片付けの手を止め、義勇の前に立った。

「ふふ、私に付いてきてね」

何故だろう。ここで風呂を借りるのもいつもの事なのに、謎の違和感が義勇の背中をぞわつかせる。早足で歩くまきをの後をついて行くと、いつもとは違う浴室へと案内された。

「風呂をいくつも持っているのか」

「まあね!でも今日は特別だよ」

一体何が?と、やはり口には出さずに疑問符を浮かべる。言われるがままに扉を開き、脱衣所で服を脱ぐと、そのまま浴室に入った。

別段、いつもと変わらぬ普通の風呂なのに、それでいて違和感が拭いきれない。これが現役の頃だったら警鐘とも取れるが、今は人生で最も穏やかな日々を過ごしている。ただの杞憂だと思った。
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