第2章 例のあの部屋シリーズ② 冨岡義勇の場合
「顔だけは派手に美しいのに。んー、勿体ない」
ペロリと舌なめずりをしてしまう。
馬乗りになり、上から見下ろすその情景はあまりにも扇情的で、涎が出てしまいそうになった。
「こんな事をして何になる?」
「この部屋から出られるわよ」
馬乗りになったまま、女は上半身の衣服を脱ぎ捨て、にこっと口角をあげた。
「あらためまして、元水柱さま。宇髄さまの弟子、このがお相手させて頂きます」
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時を遡ること半日、そろそろ日が高くなってきたお昼時に、冨岡義勇はこの屋敷を訪れていた。
「お!来たか!いい加減、地味に入ってくるなよな」
屋敷の入口に立つ背の高い派手な男、同じ元柱で同僚でもある宇髄天元だ。
「すまない。世話になるな」
「なあに、構わないって。それに顔だけは派手に綺麗だからな。嫁も喜ぶんだ」
「?」
何を喜ぶのかさっぱりわからなかったが、それを聞くこともなく、扉を潜り、いつもの様に居間へと通される。
「あら、いらっしゃい!ちょうどご飯ができたところなの」
「…………」
黒髪を纏めた艶やかな雰囲気のその女性に、なんとなくぺこりと頭を下げ、いつも座る位置に腰を落とす。彼女は宇随の嫁のひとり、雛鶴だった。3人の妻のうち、彼女がいちばん接しやすい雰囲気をもっていた。
てきぱきと配膳をこなし、あっという間に昼食の準備が整っていく様を眺めるのが、義勇は好きだった。
「よう、相変わらず派手な顔してんな!その髪も地味だけど似合ってるじゃねえか」
大柄な男が義勇の横にどしっと座り、挨拶とばかりに酒の杯をふたつ持ってきた。そう、この館の主人でもある、元音柱、宇髄天元その人だ。
「短い方が何かと便利だ」
右手を失って以来、生活はがらりと変わった。以前なら長い方が結うだけで簡単だと思っていた髪も、自分ひとりだと結ぶ事すらままならない。
「そりゃそうだな!ほら、派手に飲めよ」
杯をひとつ、こちらに渡す。それを受け取ると宇髄は酒を注いできた。それをちみり、ちみり、と舐めるようにゆっくりと味わう。
「……相変わらず辛気くさい飲み方するなぁ」
豪快に、一気に杯の酒を流し込むと宇随は続けた。