第1章 例のあの部屋シリーズ① 不死川兄弟の場合
その感触が、急に現実を呼び起こす。感情のままにが実弥の頬を引っぱたいた。
玄弥が慌てて駆け寄ろうとするが、実弥はそれを御した。
布団で体を隠し、震えるに今まで見せたことのない優しく、柔らかい笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でる。
「初めて見た時から、コイツだって思ったんだけどよォ」
「何それ」
の乱れだ髪を手櫛で整えながら続ける。
「何が良かったのか、水柱の継子になんかなっちまうし」
そう、顔を合わせればトラブルになるのが、の師である水柱、冨岡義勇と風柱の実弥だ。
「今回だってがピンチだと聞いたから飛んできたんだが、こんな部屋に飛ばされるとはなァ」
「知らないわよ!そんなの!助けてなんて言ってないし、抱いてとも言ってない!」
「しかし、抱いたからあれが出たんじゃねぇのか?」
実弥が自分の服を整え、壁の方を指差すと先程まではなかった扉が出現していた。
『扉!!』
玄弥とが一緒に、嬉しそうに叫ぶ。
「そ、そうね、早く出て、鬼を倒さないと。被害者が出る前に」
起こった事は、時は、戻せない。師匠もそう言っていたのを思い出す。
服を整え3人は勢い良く飛び出した。
「鬼め、覚悟……あれ?」
元いた場所に戻り威勢よく構えたがそこに鬼の姿はなく、代わりにの見知った顔が剣を抜いて立っていた。
「師匠!」
そう、義勇だった。主人を見つけた犬の様にかけよると、義勇も日輪刀を鞘に収めた。
「俺が来るまでよく堪えた。鬼は既に切ったから、任務は終わりだ。……ん?いたのか、不死川」
大事なところを全部持っていった義勇に、実弥は目に見えて不機嫌になった。玄弥は巻き込まれまいと、数歩後ろに下がる。
「……、今日は臭いな」
「ええっ!!すみません!!帰ったらすぐ湯に入ります」
ギロリと実弥を睨むが、中で何があったのかは言いたくないのは明らかで、普通に頭を下げ謝る。
「では、ひと足先に帰り、夕餉の支度なども準備してまいります」
(お、俺も先に帰ろう…)
巻き込まれたら一般隊士などひとたまりもない。
早々に立ち去るが吉だ。